日だまりのタンポポ






 「今日こそは・・・・・・」

 あたしはカレンダーを睨むようにして、14日の日付にきつくバツをつけた。
 そのカレンダーには同じような印がほかに13個ある。

 「絶対、涼センパイに告白するんだぁぁぁぁ!!!」

 要するに今まで毎日、同じ決意をして告白できなかった日が13日あるってこと・・・
 ちなみに先月にも、その前の月にも同じような印がある事は言うまでもないけどね。
 でも今日の蛍(あ、これあたしの名前ね)は一味違うのさっ!
 だって・・・だって・・・今日は神様が女の子の為に用意してくれた日・・・
 バレンタインデーなんだもん!
 そうやってあたしが拳を握り締めて燃えていると、突然ドアがノックされた。

 「蛍ー入るよー」

 入ってきたのはお兄ちゃん。ちょっとヌけてるけど、でもとっても優しいの。

 「朝ご飯だよ。早くおいで」

 いつものようなにっこり顔のお兄ちゃん。名前は夏見っていうの。
男の子なのに女の子みたいな名前。
 これにはわけがあって、パパとママは最初、女の子が欲しかったらしく、
それで男のお兄ちゃんにこんな名前をつけちゃったわけ。
 
 「はーい」

 そしてお兄ちゃんは来た時と同じようにトテトテと一階に降りていく。
 妹のあたしが言うのもなんだけど・・・やっぱカッコイイよナッちゃん!
(あたしはお兄ちゃんのことを親しみを込めてナッちゃんって呼んでるんだ)
 うー・・・実の兄でなければ、ほっとかないんだけどね。
 実際、ナッちゃんはカッコイイ。
 身長だって178、スマート。ちょっと趣味がマイナーというか・・・
 入ってる部活が「柔術部」。現在部員は5名なんだって。
 なんで柔道部じゃないのって聞いたら答えは簡単「畳が嫌いだから」だって。
 それでも月に貰うラブレターなんて2桁だしね。
 でも不思議なことに恋人ナシ。ついでに言うと彼女いない暦17年。
つまり一回も女の子と付き合った事ないんだって。
 好きな人でもいるのかなぁ・・・?

 「蛍ー早くおいでー」

 あっといけない。ご飯ご飯。





 急いで茶の間(普通リビングっていうんだけど、お兄ちゃんが茶の間っていう
プレートを部屋につけてしまったのだ)に降りるといい匂い。

 「はい。お弁当」

 ナッちゃんはキティーちゃんのプリントされているカバーで包まれたお弁当をあたしに手渡した。
 なんと。我が家では家事一切をすべてナッちゃんが行っているのだ。
 まぁ、なんでというと家庭の事情と申しますか・・・
 色々とある家庭なのだ、弓槻家は。
 父は現在、勤めている会社から栄転を受けて東京にいるし。まぁ月に一回は帰ってくるけどね。
 そして母は・・・うぅ・・・それは3年前の事だった・・・
 
 「そうそう蛍。母さんから手紙来てるよ。テーブルの上の」
 「えっホント!」

 そうなのだ。母は単身赴任で現在ヨッーロッパ。
 あっちの大学の方で論文が評価されてそこで教授なんかしてたりする。
 だから実質、ナッちゃんと二人暮らしなのだ。
 あたしは朝食を食べおわると、一旦二階へ戻って学校の用意を済ませる。
 いつものようにポニーにしようかとも思ったけど、今日は気分を変えておだんご二つ。
 ナッちゃんとは同じ高校に通ってるから、いつも一緒に登校している。
 あたしは1年。ナッちゃんは2年。
 時計を見るとそろそろ8時10分。

 「行くよー蛍ー」
 「はーい」





 あたし達はいつものように並んで歩く。鼻が高い。
 だって、通りかかる人達はあたし達を見て恋人同士だと思うだろうから。
 やっぱりナッちゃんカッコイイ。
 そんな幸せな時間も15分でお終い。すぐ近くにあたし達が通う「夢が丘高校」はあるのだ。
 近いのもこれはこれで残念なの。

 「ほーたーるー」

 ナッちゃんと別れ、下駄箱まていくと後ろから声がかかった。

 「あ、ケイ。おはよー」

 この子は河野慶子っていって、あたしの大親友で小学校からの付き合いなんだ。

 「まぁた夏見さんと一緒なのぉ?いいわねー」
 「だって実の兄だもんね。当然」

 ここでケイとあたしはため息をつく。

 「あーあ。あたしにもあんなカッコイイ兄貴がいたらなぁ・・・」
 「あたしも実の兄じゃなければと思うよ・・・」

 ぼやきつつもスリッパ(これが超ダサイ)に履き替え、あたし達は教室に向かう。
 教室に入るとなんだか騒がしい。当然だ。今日は2/14。
 この学校、不思議な事に男女でクラスが違うせいか教室に入ると女子校のような感覚がある。
 奇数クラスが男子、偶数が女子っていうに分けられているのだ。
 だからこの教室には当然女の子ばっかり。その40人が浮かれているから、もー大変。

 「ねーチョコ持ってきたー?」
 「手作りなの?」
 「いつ渡すー?」

 こんな声が飛び交う飛び交う。
 その中を縫って席について鞄を降ろす。
 横には栞がいつものように静かに本を読んで座っている。
 長い黒髪(最近はクラスにも染めている子がいる)の子。
 そう。この子だけはみんなと違って浮かれていない。いつも静かに本を読んでいる。
みんなともあんまり口もきかないし、滅多に笑わない子だ。
 名前は神海 栞。
 最初この神海ってのが読めなくて「かみうみ」とか呼んじゃった。
本当は「こうみ」って読むんだって。

 「栞、おはよ」

 あたしの声に栞はこっちを向いてコクンと頷く。
 最初なんて無愛想な子なんだって思ったけど、最近は彼女らしいっていう感じになってきた。
 でも、何か言って欲しいよーな気もする。
 だぁーって栞ってとってもキレイな声してるんだもん!もったいないなぁ。

 「ねね、栞もチョコ、持ってきた?」

 さらに話し掛けるあたしに栞は本を閉じて、こちらを向く。ちょっと顔が紅い。

 「・・・」

 ちょっと黙って、それから顔を一回背けて、もいっかいこっち見て。
 コクン。

 「えっホンっ・・・うぷ!」

 叫びそうになったあたしの口を栞が手で塞ぐ。
 栞の顔はさらに紅くなってる。

 「あ・・・ゴメンゴメン」

 またコクンをする栞。

 「で・・・誰にあげるの?」

 聞いた途端、紅かった頬をさらに紅くする栞。
 うぅ・・・なんて・・・可愛いヤツ・・・あたしが男の子だったら絶対ほっとかないぞ。

 「ね、誰なの誰なの?」

 目をつぶってフルフルとする栞。
 だがあたしはこの子ほど自分の事を隠し切れない子を知らない。
 栞は他人の事(主によく喋りかけるあたしの秘密とか)は絶対に言わないのに、
自分の事だと強引に聞けば、結局教えてしまう子なのだ。

 「で、誰なのかなぁ?」

 まだフルフルする栞。今回は固い。

 「そろそろ言っちゃおうか、ねー栞?」
 「・・・・・・」

 フルフルが無くなった。落ちる!

 「さー授業を始めるぞー」

 あと少しというところでヤンカバが来た。
 あたし達1−Eの担任であり、国語の教師である先生。
 ちなみにあだ名の由来は若いくせにカバみたいな体形から付いている。
 ふと栞を見ると胸をなで下ろしていた。今回はなかなか手強そうだ。





 そして退屈な授業がやっと終わった。
 さて・・・栞がいない。

 「逃げられた・・・」

 栞が逃げる・・・これはなんとしてでも聞き出さねば!

 「蛍。時間いいか?」

 などと思っていると、一番前の席から理恵が悪の手先のような表情で近づいていた。
 そしてあたしも秘密結社のボスのような顔で迎えた。

 「・・・情報入手成功だ」
 「うむ。こちらもそれなりのデータを用意した」
 「でわ」
 「でわ」

 いかがわしい空間が生まれ、その中であたしたちは互いに小さく折りたたんだ紙片を交換する。
 あたしが開いたルーズリーフには、事細かに涼センパイの今日の予定が書き込まれていた。
 そしてあたしが渡した紙にはナッちゃんの今日の予定が記されている。
 大樹理恵。その正体はなんと涼センパイの実の妹。
 ・・・まぁ正体っていうものかどうかは知らないけど・・・
 そしてあたしは知って通り、ナッちゃんの妹。
 互いが互いの兄に片思い状態なあたし達。こーいう関係(情報交換のだよ)になるのも自然であった。

 「ヒヒヒ・・・」
 「ホホホ・・・」

 どちらがあたしの声かは内緒だが、とりあえず取り引きはつつがなく完了した。
 理恵が席に戻った後もあたしはずっとそのレポートを見ていた。
 気づいた頃チャイムは鳴っていたし、栞は教科書を机に用意して、
一生懸命こちらと視線を合わせまいとがんばっていた。
 だが無常にも(栞にとって)時間は経つものだ。
 授業終了とともに脱兎のように逃げ出した栞を見送りつつ、あたしは余裕で席を立つ。
 栞が逃げる場所など知れている。
 とまぁ、予想通りに屋上。その木のかげから風にのって髪が流れている。
 
 「しーおーりーちゃーん」

 だが彼女はあたしに気づかず空を見ていた。ボーっとね。
 恋する少女の目だよ完全に。

 「・・・ねぇねぇ」

 やっとの事で気が付く栞。

 「よっぽど好きなのねぇ。そのチョコ上げる人」

 栞は大事そーに胸にチョコらしき包装が施されたものを持っていた。

 「聞きたいなぁ・・・そんなにしおりが好きな人・・・」

 だけど、栞は黙っている。

 「あたしの知ってる人?」

 ピクンと栞の肩が跳ねる。

 「ね、誰?」

 自分でもいい加減しつこいとも思ったが、ここまでくるとやめられない。

 「怒らないでね・・・蛍ちゃん」
 「?」
 「蛍ちゃんの・・・」
 「あたしの?」
 「蛍ちゃんの恋人の人・・・」
 「えっ!」

 あたしの反応に栞が慌ててフルフルをする。

 「でも、でも蛍ちゃんがダメだっていったら・・・チョコも渡さないから、
私の事・・・嫌いにならないで・・・お願い・・・」

 最後は消え入りそーな声の栞。ちょっと涙ぐんでたりする。

 「はぁ・・・」

 あたしの返事。
 しばし沈黙。
 栞はあたしへの後ろめたさで胸いっぱいだろーが、あたしの胸は疑問で渦巻いている。

 「栞・・・」

 今度はビクッとする栞。
 多分あたしに怒られるとでも思っているんだろうが・・・

 「あたしの恋人って・・・誰?」
 「え・・・」
 「あたし、好きな人はいても恋人なんていないけど」
 「・・・だって・・・毎日、一緒に学校に来てる男の人・・・」

 栞には悪いと思った。思ったが我慢できなかった。

 「あはははははははは!!」
 「え?え?」
 「ナッちゃんの事?あたしの実の兄だよ」
 「え・・・」
 「そっかぁ・・・栞知らなかったんだ。ナッちゃん事、弓槻夏見はあたしの兄でーす」
 その途端、栞がへたり込んだ。
 「わ、どったの栞?」
 「力が抜けちゃって・・・」

 うーホントに愛い奴。

 「夏見さんて言うの・・・」
 「あれ、好きな人の名前も知らなかった?」

 コクン。

 「ははは栞らしいね」

 また顔が紅くなる栞。
 と。
 キーンコーンカーンコーン。

 「行こっ授業が始まっちゃう」
 「うん!」





 現代国語、古典、そして次々に始まっては終わっていく授業。
 あたしは心臓が高まっていくのを感じていた。
 それは皆同じようで、そわそわとしている子も多い。
 そう、残すところあと一時間。それもあと10分で終わりを告げる。
 女の子がチョコを渡すの適している時間帯といえば・・・
 部活の始まる寸前と終わった直後。
 しかし終わった直後では、すでに何人かは渡しているだろうし、
その中にもしOKされた子がいようものなら結果の見えているくじを引くようなものだ。
 隣を見れば栞もうつむいて、たまに胸にしまっているチョコを見ている。
 ナッちゃんの倍率ははっきり言って高い。理恵だってその一人だ。
 だが他人の事を心配している余裕はない。なんせ涼センパイもかなりの倍率なのだ。
 これを女の子の間で「RN信仰」と呼んでいる。涼のRに夏見のN。
 あははっ単純・・・て笑い事ぢゃない。
 とにかく、みんなは部活の合間を狙ってるみたいだけど、あたしは知っている。
 今日は涼センパイが部に出ない事を。
 で・・・行き先は「南総合病院」ってあるのよねー。
 センパイなんか病気してるのかなー・・・
 シンパイしちゃう。
 とりあえず、学校は終わった。
 でも戦いはこれからなのだ。グランドに向かうみんなを尻目にあたしは・・・
 っと栞が座ったままだ。

 「どうしたの?みんな行っちゃったよ?」
 「蛍ちゃん・・・」
 「ん?」
 「足が動かないの・・・」

 あれれ。震えてる。

 「学校じゃ無理かもねー。栞の性格じゃ・・・」

 コクン。
 ちょっと寂しげだ。

 「よし!この蛍ちゃんが一肌脱ごう!」
 「え・・・?」
 「今夜、家においでよ。夜ならナッちゃんもいるし」
 「・・・でも・・・」
 「気にしない気にしない。どーせあたしとナッちゃん以外いないし」
 「え・・・ご両親は・・・」
 「あ、親なんていないから気にしないで」
 「あ・・・ごめんなさい・・・」

 気を遣ってくれる栞。勘違いしてるだろうから訂正する。

 「単に仕事でいないだけだって。そうね、9時にでもおいでよ。
どーせ明日は第2土曜で休みだし。泊まってけばいいじゃん?」
 「・・・いいの?」
 「無論。まかせなさい、お膳立ては完璧にしとくわ」

 ポッとなる栞。
 純情ねぇ・・・あたしとは大違いだ・・・





 笑顔で栞と別れた後。
 あたしはグランドのわきに戯れるライバルであろー子たちをよそに南総合病院へと向かった。
 到着までバスで20分少々。その間にも作戦らしきを練る。

 「だけど・・・とりあえずセンパイはどこにいるんだろう?」

 やっと着いた南総合病院。

 「でかすぎる・・・」

 夢が丘高校が5個は入りそうな敷地に巨大な棟が三つ。

1 とりあえず探し回る。
入れ違いになる可能性大。よって否認。

2 看護婦さんに聞きまわる。
・・・一体何人いるのよ。絶対無理。

3 ひたすら待つ。
確実。決定。


 というわけであたしは今、夕焼けを見ていた。
 バス停で一人たたずむ美少女(あたしの事だ)。うーん絵になる。
 さらに待つ。


 はぁーいい月だなぁ。時計は8時を勢いよく回ってるし。
 9時には栞も来るしね。仕方ない。はぁ・・・
 8時20分のバスに乗ってあたしは家路についた。
 家の前までダッシュすると、玄関のチャイムの前でうろうろしている人影が一つ。
さてはフシンジンブツ?
 などとたわけた事を思いつつ近寄る。

 「ああ・・・どうしよう・・・」

 人差し指がチャイムに触れるか触れないかで、またその白い指を引っ込める。

 「でも・・・でも・・・せっかく蛍ちゃんが・・・」

 また指が伸びて・・・戻る。

 「・・・でも今日を逃がしたら・・・・・・」

 面白い子である。

 「栞」
 「ひんっ!」

 奇声を上げてこっちを向く栞。

 「あっ・・・蛍ちゃん」

 声をかけたのがあたしと知って安堵する栞。

 「何やってるの?早く中に入ろ」
 「きゃ・・・」

 と、強引に手を引き、玄関を開ける。
 全く。こーでもしなけりゃこの子ずっとこのままだっだろーな・・・

 「ただいまー!友達連れてきたからねー」
 「おかえり。兄ちゃんの方も友達いるから」

 と茶の間から。
 バレンタインに来る友達ねぇ・・・よっぽどモテない人だな。

 「おじゃましてまーす」

 で、恐らくはそのナッちゃんの友達の声。ハテ?聞いた事のあるよーな?
 不審に思って茶の間を覗くと・・・・・・

 「涼センパイ!」

 間違えるはずのない顔、大樹涼その人だったのだ!!

 「えっ?」

 しまった、初対面だったのに・・・
 あたしに対する涼センパイの第一印象=なんで俺の事知ってる、この女?
 終わった・・・BYBYあたしの恋、そして今までありがとう・・・

 「僕の事知ってるの?蛍ちゃん?」

 えっ・・・

 「なんでセンパイあたしの名前・・・」

 ああ、と言って涼センパイはナッちゃんを指差した。

 「夏美にいつも聞かされるからね。うちには可愛い妹がいるって」

 ほっ・・・とりあえず話がそれた。お帰り、あたしの恋。これからもヨロシクね。

 「蛍」

 ナッちゃんはいつものよーにニコニコしてる。ニコニコしながら。
 で、そのナッちゃんがあたしの後ろに目をやった。

 「蛍。友達、倒れたけど」
 「ああ!!栞ィ!!」

 見れば硬直したままぶっ倒れている栞。

 「夏見先輩がいて・・・夏見先輩だから・・・夏見先輩なんだ・・・」

 完全にうわ言を言ってる。チョコを放さないのはすごい。
 普段気弱な子が思いつめると、こーなるのか。

 「あ、あたし栞を上に連れてくから」
 「うん。後で一階においで。神海さんも一緒に」
 「わかったー」

 などと栞に肩を貸しつつ、なんか疑問がかすめたけど。ハテ?
 部屋に入ったあたしは、まず栞をソファに下ろし、ほっぺをペチペチとやった。

 「おーい・・・栞ちゃーんやーい」
 「・・・うーん・・・」

 ほんのり上気した横顔。悩ましげな表情。
 ・・・いかんいかん。

 PIPIPI PIPIPI

 突然、電話が鳴る。

 「はい、弓槻ですが・・・」
 「蛍?」
 「ああ、理恵。どうしたの?」
 「いやね。今朝渡した兄貴の予定が違ったもんで。ついでに夏見先輩のも違ったわ」
 「は?」

 しばらく、あたしと理恵は互いのミスを確認した。
 要約するとこういう事らしい。
 逃げ回っていた。

 「ナッちゃんも涼センパイも今日は誰にも予定を漏らさず行動していた・・・という事なの?」
 「どーもそーらしいのよ」
 「なんでまた?」
 「そりゃー去年のバレンタインで懲りたんじゃないの?」

 ふーむー。モてる男はつらいってわけか。

 「じゃ、そういう事よ。バイバイ」
 「あっ理恵・・・」

 今、二人とも家にいるよーと言おうとした途端きれた。あいかわらずビジネスライクな子だ。
 ま、今夜のところは栞のために理恵には内緒にしとくか。

 「蛍ちゃん・・・」
 「あ・・・気がついた?」

 パチパチと瞬きする栞はあたりをキョロキョロと見回し言った。

 「ここは・・・?」
 「ああ。あたしの部屋よ。さっき栞が突然倒れちゃってさ。驚いたのなんのって・・・」
 と。
 栞がつぶらな瞳に大粒な涙を浮かべて、それが一滴だけ落ちた。

 「どっ・・・どうしたの?」
 「う・・・私・・・変な子だと・・・思われてるかも・・・」

 ・・・オイオイ・・・んじゃあ、初対面で知るはずのない相手の名前を叫んだあたしは何者だよ・・・

 「大丈夫だって・・・さっきナッちゃんが神海さんも一緒に下へおいでって言ってたし」
 「本当・・・?」
 「あたしの涼センパイに対する想いに誓って!」
 「・・・」

 まだ少し落ち込んでいた通りだったけど、クスッと笑ってうなずいた。
 ・・・絶対上手くいって欲しいなぁ、栞とナッちゃん。
 ほのぼのとし過ぎてるナッちゃんには、栞みたいな大人しい女の子が似合ってると思うし・・・
 涼センパイはどうなんだろ・・・
 あたしじゃダメかな・・・
 センパイ・・・





 「一体、今日はなんて日だろうな、夏見」
 「そうだな」

 俺は無口になった夏見の顔を見ながら、なんなとく言った。
 コイツ・・・さっきから緊張してやがる。今までさんざん俺に緊張するなとか言っておきながらよ。
 まさか自分まで同じ立場になるとは思いもしなかっただろう。

 「とにかく・・・乾杯だ」

 俺がグラスを持ち上げると夏見も笑いながら自分のグラスを俺に寄せた。

 「俺たちの友情と・・・」
 「俺たちの想いに・・・」

 チン、と透き通った音がした。
 夏見とは高校に入ってからの付き合いだが、とてもそんな短い間柄とは思えないほど気が合う。
 まるで十数年来の・・・とは言っても俺と夏見は17だが、そんな気さえしてくる。
 夏見も普段は見せないような顔を俺に見せてくれる。
 いつも明るく振る舞っている夏見。
 だが、こいつは元々そんな性格じゃない。自分が蛍ちゃんという妹を守ってやり面倒を見て。
 自分の事よりも先に蛍ちゃんの事を優先するやつだ。そして・・・優しすぎる。
 だから、なるべく他人を傷つけないように、
他人に気を遣わせないように明るく振る舞っているヤツだ。
 だが俺の前だけは地で話す。
 なぜだ? って一度聞いてみた。

 「お前が馬鹿で・・・どうしようもなくいい奴だからだ・・・」

 だってよ。俺は怒っていいんだか笑っていいんだか、迷ったよ。
 そのときの気分を今でもよく覚えている。

 「しかし・・・まさか、神海さんが来るとは・・・」

 しばらくして一人言のようにつぶやいた夏見の言葉に俺はプッと吹き出した。

 「ハハ・・・さっきまで俺の事言っていた余裕はどこにいったよ?」
 「・・・フン・・・蛍がいる事に変わりはないぞ・・・」
 「でもまぁ、同じ境遇の仲間が増えて心強いさ」
 「・・・フン・・・」

 こいつは俺が蛍ちゃんの事を好きなのを知っている。というか俺が言ったんだがね。
で、今夜、夏見が遊びにこないかと言ってくれた。
 告白するという条件で。

 「お前だってするんだぞ。俺が告白したらお前もするって言ってたろ・・・」
 「・・・う・・・」
 「男の約束を破る気か・・・?」
 「・・・・・・フン」
 「観念しろって。神海栞ちゃんだっけっか?なかなか可愛い子じゃないの」
 「・・・お前、手出すなよ」

 夏見が俺をにらむようにする。わかりやすいヤツ・・・

 「バカ・・・冗談だよ。全く、一途の癖に気が弱いんじゃ、どーしよーもねぇな」

 俺は手をパタパタしながら、夏見をからかう。

 「・・・フン・・・」
 「さっきからそればっかだな、お前・・・」
 「・・・フン・・・」
 「・・・そろそろ降りてきてもいいころだけどなぁ・・・」





 「そろそろ降りなきゃ・・・逆に変に思われるわよ、栞」

 あたしはあれから20分は経った時計と栞を交互に見回す。

 「・・・蛍ちゃん・・・あと一回だけ・・・」

 と、栞は10回目の「あと一回だけ」をする。

 「手のひらに人を書いて・・・飲む・・・人を書いて・・・飲む・・・」

 全く・・・見てて飽きない子だよ・・・
 でも今はこんな事で時間を取るわけにはいかない。

 「栞、もう行こう。為せば成るよ!!」
 「・・・」

 意を決して栞はコクンをした。
 あたしはたちは互いに一度顔を見合わせ、そして階段へ向かった。
 二人とも第一印象がかなりおバカだった為、それが極度の緊張を促していた。
 あたしが先。そのちょっと後ろにチョコチョコとついてくる栞。
 そして一階へ着き、「茶の間」というプレートの張られたドアを目の前にして、

 「いい・・・栞?」

 コクン。

 「ノック・・・するわよ・・・」

 コクン。
 うーなんだかあたしまで、思いっきり緊張してきちゃった。
 ドキドキしてる心臓・・・収まれ、止まれ!

 「ふぅー・・・でわ、蛍ノックします!」

 コクン。
 栞も真剣。
 コンコン・・・
 した。ノックしてしまった! 涼センパイがいる部屋のドアを!
 ドキドキドキドキ!

 「はーい。どうぞー」

 この間延びした声はまさしくナッちゃん。
 振り向くと栞は、なんだかあさっての方向に向かってセリフの練習をしていた。

 「は・・・初めまして・・・あ・・・あたくしくし・・・・・・」
 「入るよ栞・・・」
 「う・・・蛍ちゃん・・・私、私・・・」
 「えーい!」

 さっきと同じ要領であたしは栞の手を引っ張って部屋に入った。
 栞の手はかなり緊張しているらしくかなりこわばっていた。
 そしてあたしは入ってすぐに言った。

 「こんばんわ! 初めまして!」
 「いやー別に初めましてじゃないけどね」

 えっ・・・
 と、あたしはおじぎしていた頭を上げて部屋の中を落ち着いて見た。

 「あれ・・・ナッちゃんだけ?」
 「涼ならトイレだよ」

 あたしは一瞬、体中の力が抜ける思いがした。

 「で、蛍。なんで傘持ってるの?」
 「え?」
 
 見ると確かにあたしの手には一本の傘がしっかり握られている。

 「あれ・・・栞・・・」

 後ろを見ると、開け放たれたドアの向こうで、何か言っている栞の姿・・・・

 「し・・・栞・・・」
 「・・・え・・・・?」

 栞の目が点になった。

 「とりあえず、部屋に入って。神海さん」
 「は・・・はい・・・」

 しずしずと進み、パタンとドアを後ろ手に閉める栞。

 「は・・・初めまして・・・こ、神海・・・栞で・・す」
 「初めまして。弓槻夏見です。蛍がいつもお世話になってます」
 「いえ、こちらこそ蛍ちゃんには、迷惑ばかりかけて・・・」
 「立っているのもなんですから・・・さ、座ってください」
 「で、では失礼します・・・」

 空気が固い・・・
 なんだかねぇ・・・・栞は栞でずっと下を向いているし。
ナッちゃんはナッちゃんで妙にぎこちないし・・・なんかお見合いしてるみたい・・・・

 ガチャ

 あたしがそんな事でボーっとしていた時、
ずぐ後ろのドア(あたしだけずっとドアのとこにいた)が突然開いて、

 「夏見ー、蛍ちゃん達まだかー・・・って・・・蛍ちゃん・・・」
 「あ、あ・・・」

 きゃー! 涼センパイと急接近!! どうしよどうしよ!!
 うわーやっぱりカッコイイ!
 それにあたしの事「蛍ちゃん」だって!! きゃーきゃー!!

 「そうそう・・・さっきの子、大丈夫だった?」
 「あ・・・栞なら・・・」

 あたしは向かい合って正座している二人を指差した。

 「なんだ・・・こりゃ・・・まるで見合いみたいな雰囲気作って・・・」

 ・・・同感。

 「とりあえず、俺達も座ろうか」
 「は、はい」

 であたしは栞の隣に、涼センパイはナッちゃんの隣で、あたしの正面に座る。

 「じゃあ、俺達の出会いに乾杯しよう」

 涼センパイがあたしの前にあったグラスにジュースをついでくれる。
 で、お返しにあたしも同じものを涼センパイについであげた。

 「って・・・」

 涼センパイは二人の妙な世界に入っているナッちゃんと栞を見て、ため息。

 「夏見・・・オイ」
 「ん・・・ああ」
 「栞、ねぇ」
 「え・・・あ・・・」

 やっと、全員にジュースが行き渡って、無事乾杯。

 「カンパーイ!」

 音頭は涼センパイがとって、チンチンチンチンとグラスのぶつかる音。
 あたしは一気にジュースを飲み干した・・・

 「をを! 蛍ちゃん行けるクチだね!」
 「へー蛍、酒が強いのか」

 ・・・お酒だ・・・オレンジジュースだと思ったら。

 「蛍ちゃんスゴイ・・・」





 で、一時間もすると、みんなそれなりに酔いが回っていた。
 見たい番組も全部終わっちゃって、お菓子もなくなってきた。
 ふと、涼センパイが立ち上がって。

 「夏見、俺コンビニで何か買ってくるよ」

 言われたナッちゃんは、何か涼センパイに目配せしていた。
 涼センパイがなぜか喉を鳴らす。

 「ね、ねぇ・・・良かったら蛍ちゃんも一緒に行かない?酔い冷ましにもなるし・・・」

 えっ!?

 「いっ行きます!」

 気のせいか、涼センパイがほっとした表情を見せた気がした・・・まさかね・・・

 「気をつけてね・・・蛍ちゃん」

 栞がちょっと頭をふらふらさせながら言う。

 「涼・・・女の一人も守れないようじゃ情けないぞ・・・」
 「まかしとけって夏見。俺も元柔術部だぜ」

 へぇー初耳だなぁ。今じゃサッカー部のキャプテンなのに。

 「んじゃ行ってくる」
 「じゃあ、行ってきまーす」

 で、あたしは涼センパイとふたりっきりの時間を迎えたのだった! 


 「・・・・・・」
 「・・・・・・」

 ずっと静か・・・
 やっぱり私なんかと二人きりじゃ夏見先輩もきっとつまらないんだろうな・・・
 私はちらっと夏見先輩の顔を見る。だけど先輩はグラスを弄んで退屈そう・・・
 蛍ちゃんと大樹先輩がお買い物に出てからずっとこの調子。
 何も言わない夏見先輩・・・
 やっぱり私なんか・・・
 しばらくして、かかっていたCDが切れて・・・本当に何も音がしなくなった。
 無音だった。
 苦しい・・・何か言わなきゃと思えば思うほど、苦しくなる。
 ・・・蛍ちゃん・・・早く帰ってきて・・・
 私はそれだけを願っていた。
 二人が帰ってくれば、またさっきみたいに夏見先輩の顔を見ていられる・・・
 私はそれだけで・・・

 「神海さん・・・」

 ・・・蛍ちゃーん・・・お願いよ・・・早く・・・
 いつもならもうすぐお店まで往復できる時間が経つくらい。

 「あの・・・神海さん・・・」

 ・・・えっ。夏見先輩が喋りかけてくれる!?
 返事、返事しなきゃ!
 何だっけ?何か聞かれるの?どうしよう・・・えっと・・・

 コクン。

 あーん・・・コクンじゃないのよ。何か言わなきゃ!
 でも夏見先輩はにっこりして、私に話を続けてくれた。

 「どんな歌が好きかな? 何かCDかけようと思うけど、そこに好きなのあるかな?」

 夏見先輩は私の横にあるCDラックを指差した。
 えっ・・・えっと・・・何だっけ?
 歌。そう、歌・・・えっと・・・えっと。
 私は最近の歌はよく知らないし・・・でも何か・・・
 ・・・あ。
 これ・・私の好きな・・・

 「じゃ、じゃあ・・・こ・・・これ・・・」

 これ・・・だなんて・・失礼な子だって思われる・・・
 でも喋れない・・固まっちゃって・・・
 だけど夏見先輩は微笑んだままだった。
 で私の渡したCDを見て、微笑みが増した。

 「『名前のない愛でもいい・・・』か。神海さん白井貴子が好きなんだ。珍しいね」

 あ、また変な子って思われちゃった・・・
 私は浮かんできた涙を一生懸命隠した。
 見つかったらまたおかしな子だって思われちゃう・・・

 「てっきり蛍のCDから選ぶかなぁ、と思ってたけど。僕のとこからだから。気が合うかもね」

 ・・・え・・・
 今・・気が・・・合うって・・・
 私と・・・?

 「こういうのかけてるといつも蛍にジジくさいって言われてるけど、良かった神海さんも一緒の好みで」

 夏見先輩は私のCDをセットしてPLAYのボタンを押す。
 静かなでどこか悲しげなメロディが流れはじめて・・・
 その時、初めて私と夏見先輩の目が合った・・・
 私は目をそらそうとした・・・だけど、そうしたら次の機会は・・・
 夏見先輩はずっと私の目を見てる・・・
 心臓がトクントクンしてる・・・
 夏見先輩に聞かれたらどうしようって思うくらい・・・ 

 「あの夏見先輩・・・」
 「あの神海さん・・・」

 同時に声が出て・・・またお互い黙ってしまう・・・

 「えっと・・・何?」
 「あ・・・夏見先輩から・・・どうぞ・・・」

 バツが悪そうな夏見先輩。
 私のせいで・・・ごめんなさい・・・

 「あの・・・」

 夏見先輩が私を見ながら、切り出した。

 「神海さんに大事な話があるんだ・・・いや、あります。聞いてもらえますか・・・」

 えっ・・・大事な話って・・・
 と、とにかく何か返事・・・返事を・・・

 コクン。

 ・・・また・・私・・・・

 「では・・・」

 コホンと咳払いをして、夏見先輩は真剣な眼差しで私を見つめた。

 「僕は喋るのもあんまり上手じゃないから・・・単刀直入にいいます・・・」

 ドキドキドキ・・・・
 な・・・なんだろう・・・蛍ちゃんの事か・・・な?
 ま・・・まさか・・・
 もしかして・・・でも・・・そんなはず・・・

 「神海 栞さん・・・好きです。恋人になってください・・・」





 「風が気持ちいいねー」
 「そうですねー」

 あたしはいつの間にか、緊張も取れていつものように喋れるようになっていた。
 コンビニに行って、色々と買った帰り。
 先輩が少し遠回りして一緒に歩こうって言ってくれたの。
 もちろんOK!だってそれだけ長くセンパイと二人きり!

 「とこでセンパイ、一つ聞いていいですか?」

 普段のあたしなら絶対聞けないような事だった。でも今は少し酔ってたし・・・

 「なんで今日は部に出なかったんですか?女の子もいっぱい待ってたみたいでしたけど?」
 「え・・・えっと」
 「チョコから逃げ回ってたんですかー?」

 ふざけて言った言葉、センパイは気まずそうに。

 「うん、まぁ・・・」
 「え、何でですか?センパイならいっぱい貰えると思いますけど?」
 「蛍ちゃん。貰えるチョコの数は一つでいいんだよ。自分の好きな子のね・・・」

 ・・・ズキッ・・・

 「・・・・・・」

 あたしは迷った。次の質問をする事に・・・
 でも、今以外には二度と聞けないだろうから・・・

 「センパイ・・・好きな人がいるんですか・・・?」
 「え? そんなの・・・」

 多分、先輩ははぐらかすつもりだったんだろうけど、あたしがすごく真剣な目をしてたから。

 「ああ・・・いるよ・・・」

 ・・・痛い・・・胸が・・・すごく痛い・・・
 好きな人がいたんだ・・・涼センパイ・・・

 「・・・そうですか」

 泣きそうになる。涙が溢れそうになる。
 だけど・・・だけどあたしがここで泣いたら・・・先輩を困らしちゃう・・・

 「・・・どんな人ですか?すごく興味あります、センパイが好きになる人って」

 あたしはできるだけ軽い口調で、顔を見せないように言った。
 もう涙が止まらないから。

 「・・・うーん。わりとそそっかしい子だと思う。それで活発な元気な子」
 「付き合って・・・いるんですか?」

 センパイは首を降った。

 「いや・・・でも、もうすぐ告白しようと思ってる。たとえ断られても、ね」
 「・・・・・・」

 ひどい・・・ひどいよ・・・センパイ・・・・
 あたしがこんなに貴方の事好きだって知らないでしょ・・・
 告白するなんて、そんな事・・あたしに言わなくても・・・

 「で、でも、センパイなら絶対に・・・絶対に・・・上手く・・・」
 「え・・・?」

 もうダメだった。声が涙で震えて・・・
 多分、気づかれてる・・・あたしが泣いている事・・・

 「蛍ちゃん・・・?」
 「イヤ!見ないで・・・ください・・・」

 あたしの顔を覗き込もうとした先輩に、あたしはすぐに背を向けた。

 「・・・泣いてる・・・の?」

 あたしは違うって言おうとした・・・
 だけど・・・それさえも言えなかった。もう声も出なかった。
 声を出したら・・・一気に泣いちゃいそうで・・・
 しばらくあたしはその場に立ち尽くしていた。
 歩かなきゃと思っても、あたしの体があたしじゃなくなったみたいになって、動かなかった。

 「蛍ちゃん・・・」
 「・・・はい」

 なんとかそれだけ言えた。

 「聞いていいかな。俺が告白したら上手くいくと思うかい?」

 背中からそんな事を言う先輩・・・
 なんで・・・なんでそんな事、あたしに聞くの?
 酷いよセンパイ・・・酷い・・・
 あたしは無言でうなずいた。

 「そっか・・・ありがと、蛍ちゃん・・・」
 「・・・・・・」 
 「蛍ちゃん・・・こっちを向いてくれないか?」
 「・・・・・・」
 「・・・お願いだ」

 先輩・・・何かあるの? あたしが先輩の方を向いて・・・
 それともあたしの泣き顔が見たいの?
 でもあたしは「お願いだ」という言葉にゆっくりと先輩の方に向き直った。
 顔は隠したままだから、今先輩がどんな表情をしているかわからない。

 「聞いてほしい事がある。できれば・・・顔を上げて聞いてほしい・・・」
 「・・・・・・」

 あたしはゆっくりと顔を上げた。多分、まだ涙の止まってないあたし。
 そんな顔を見る先輩の顔はとっても真剣な表情だった。

 「蛍ちゃん・・・」
 「・・・・・・」
 「好きだよ」





 RIRIRIRIRIRIRIRI・・・

 「うーん・・・」

 あたしは眠い目をこすりつつ、ベットから起き上がる。
 いつもより少し早く鳴った目覚し時計。

 「ふぁーあ・・・」

 そしていつものようにカレンダーの前に立った。
 2/17。
 でももうバツ印はつけなくってもいいの。
 何か栞とナッちゃんも上手くいったみたいだし、すっごく幸せ。
 あたしは制服に着替えながら、あの時のセンパイのセリフを思い出す。
 好きだって言ってくれた先輩・・・
 あたしは何も言えなくって・・・やっとの思いでチョコを渡したら、先輩は。

 「ありがとう」

 って。
 もう何がなんだかわからないほど嬉しかった。
 で、今日からは4人で学校に行くの。
 ナッちゃんとあたしと栞と、そして涼センパイ・・・じゃなかった涼君と。
 いつまでもセンパイなんて呼ばなくっていいっだって
 ・・・ちょっと紅くなってたの、あの時のセンパ・・・涼君。
 もう冬休みの計画だってあるのよ。
 4人でどこか旅行に行こうっていう、大きな計画。もちろん泊りでね。
 でも意見が二つに別れて、涼君とあたしはスキー、ナッちゃんと栞は・・・ 
 なんと温泉っていうんだよ!
 なんてジジババ臭い・・・ほんとお似合いなんだから・・・フフッ
 とにかく楽しみなんだ。はやく冬休みにならないかなー。

 「蛍ー朝ご飯だよー」

 おっと。

 「はーい。今、いきまーす!」

 あたしはスキーと。
 そして温泉宿のパンフでちらかった部屋から茶の間へと降りていった。






日だまりのタンポポ 完






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