百禍繚乱 〜カゲロウ・ハクジツ〜 (後編)






 「はッ!」

 メイラのランス、ゲイボルガがリオレイアの尾を突き上げる。
 貴重な鉱石の塊のそれは、かなりの貴重品であり、相応の性能を秘める。
 しかしメイラの技量はその性能を充分に引き出していた。
 リアレイアの尾はまたたく間に切断され、それを見計らってスヴェツィアが閃光を投げつけ、視界を白く染める。
 目を焼かれたリオレイアに対し、二人は息のあった連携を仕掛けていく。
 主力がメイラ、片手剣デッドリィポイズンを扱うズヴェツィアが補助という形で討伐は行われていた。

 「ふむ」

 イスキが見る限り、メイラの腕前は一流と言えた。
 常に状況を把握し、スヴェツィアの動きもよく見ている。
 前に出すぎればそれを押さえ、下がりすぎれば前に出す。
 そのようにしてリオレイアとの戦い方を体で覚えさせているようだった。 
 スヴェツィアもまた、メイラの指示に正確に反応して動いている。
 イスキから見ても腕前はハンターとして充分。あとは経験を積むのみ。
 
 「こういう指導の形もあるか」

 ただ問題は、この方法だと一人一人の指導になる。
 三人の弟子がいる以上、可能な限り公平に接したいというのがイスキの考えである。
 となると、一日ごとに順番で指導し、あとの二人は自主訓練となってしまう。
 それはイスキとしては避けたい部分でもある。
 彼女達の時間は有限であるし、イスキとしても弟子とは多くの時間をともにしたいと思っている。

 「三人同時に面倒を見る、という手もあるか」

 しかしイスキの弟子はまだ若いとはいえ、それぞれが訓練生の主席、次席、そして特待生。
 しかも出合った頃よりも、ずいぶんと成長しているのだ。
 生半の相手では、訓練にならないだろう。
 かと言って、無理をさせて怪我をさせてしまっては意味がない。

 「なかなか難しいところだ。しかし勉強にはなる」

 戦いは転機を迎えていた。
 リオレイアがついに、メイラ達に背を向けて遠ざかっていく。 
 この状況でハンターがとる行動は二つ。
 巣に追いやって討伐するか、ここでしとめるか。
 メイラ達は、申し合わせたようにリオレイアへ駆け出す。
 どうやら二人は、短期決戦を選んだようだった。

 「スヴェツィア!」
 「はい!」

 メイラがリアレイアの横に回り込み、すでに切り裂かれた羽を狙っていく。
 数度の打撃がリアレイアの体勢を崩し、その機を狙って、再度スヴェツィアの放った閃光が生まれる。
 あと少し。
 その瞬間こそ油断がならない事を知っている動きで、二人は最後まで気を許す事なく。
 やがてリオレイアが大きく体をゆすり、地に伏した。

 「お見事でした」

 イスキが息を荒げている二人に寄り、スヴェツィアに回復薬を手渡す。
 メイラは擦り傷程度だが、スヴェツィアには少々の裂傷がある。
 
 「あ、どうも、すいま、せん」

 息を整えつつ、薬を受け取るスヴェツィアを見てレイラが口を開く。
 その言葉は、いたわりではなかった。

 「スヴェツィア、何度言ったらわかるの! ブレスは防ぐんじゃない、避けなさい! 片手は機動力が命なのよ!」
 「は、はい!」
 「ランスにはランスの、片手には片手の技術がある。あたしの真似をするんじゃなくて、あたしの動きの本質と目的を自分で考えて実行しなさい!」
 「はい!」

 酒場の時とは全く違った二人の態度に、イスキはうなずく。
 気を抜き休むべき時には、友人のように。
 そして実戦の場では師弟として。
 常に同じように振舞う事しかできないイスキには難しい事だった。
 また、メイラは言葉で全てを教えず、考えることを課している。
 ただ教えられたことをなぞるよりも、自分で見つけた技術というのは確かに習得が早い。
 それは間違った技術を身につけてしまう危険性もあるが、それを修正し正す事ができる師がいるならば。
 イスキが見る限り、メイラはそれも充分と言えた。
 特にメイラは片手剣に関して造詣が深いらしく、ただランスを使い続けているだけのハンターではわからない細かい指導もしているようだ。

 「あの、イスキさん、どうでしたか?」

 スヴェツィアはまだ息が荒いが、メイラはすでに平常を取り戻し、おずおずとイスキに問いかけている。

 「非常に勉強になりました。このような指導の方法があり、それが素晴らしい成果を生むという事に自分の未熟さを感じていたところです」
 「あ、それは、どうもありがとうございます・・・というか、そうではなくて、あたし達の戦い方に関して、その何かあれば・・・」

 イスキは考える。
 確かにイスキから見れば無駄な部分はあるが、果たしてそこまで言及するべきだろうかと。
 そんな考えを察したのか、メイラが言葉を足す。

 「あの、あたしはまだまだ強くなりたいんです。厳しい評価をお願いします」
 
 メイラのその言葉き、何かを目指している時の求めるようなものではなく。
 必要に迫られ、何かに打ち勝たなければいけない、そんな焦燥感が混じっていた。
 イスキはうなずき。
 
 「わかりました。では、私が思った部分ですが・・・」

 イスキは次々にメイラの未熟な点を上げていく。
 真摯な態度で聞き入るメイラ、それを横で聞いていたスヴェツィアの表情が次第に唖然としていく。
 イスキの言葉は、確かに理論的だし、正論ではある。
 しかしそれを実行するとなると別の話だ。
 スヴェツィアは、その表情を憤然に変え、ついに我慢できず。

 「あのー? 言うのは簡単だと思うんですけど? 今、言ったコトって、ご自分はできるんですか?」

 イスキの言葉を聞き逃すまいとしていたメイラが、それを聞いて顔色を変える。

 「スヴェツィア! 失礼な事を!」
 「え、え?」

 スヴェツィアとしては自分の師匠を馬鹿にされた感覚で反論したにすぎない。
 しかし、まさかメイラから叱咤されると思っていなかったらしく、体をすくめる。

 「だ、だって、先生、この人、なんか偉そう・・・」
 「この子は!」

 メイラが手を振り上げるも、イスキがそれをとめる。
 
 「彼女の言う事もわかります。私もかつて弟子にそう言われた事がありました」
 「イスキさん・・・」
 「そこでどうでしょう。今日は私が勉強させて頂きましたので、明日は私が今言った点をふまえて討伐を見ていただくというのは」

 イスキは表情を変える事なく、淡々と告げる。
 ようやく我に返ったスヴェツィアは目を大きくして。

 「あ、あの、すいません。ちょっと感情的になってしまって。でも、そういう意味で言ったわけじゃなくて」

 スヴェツィアはイスキが虚勢を張ったあげく、後にひけなくなって無理をしようとしていると判断していた。
 しかしメイラは。

 「願ってもないことです! ぜひ!」

 と、喜色満面でイスキに頭を下げる。

 「先生、いいんですか?」

 心配そうな弟子の顔に、メイラは笑い。 

 「スヴェツィア。あなたはあたしを英雄と同じくらい強いと言ってくれるけど・・・本当に英雄と呼ばれる人の力を見ておくといいわ」 
 「はぁ・・・」

 メイラの確信めいた何かに、ただスヴェツィアはうなずくしかない。

 「さ、今日はもう帰りましょう。ご飯食べていくでしょ?」

 それを聞いたスヴェツィアが満面の笑顔になる。

 「もちろんです! 先生のご飯、とっても美味しいですから!」
 「ふふ、ありがとう。では、イスキさん、帰りましょう」
 「ええ」
 
 そうして三人は討伐の成果を持って家路についた。




 
 「で、どうだった、この二人は?」

 四人で食卓を囲む中、アザァは斜め向かいのイスキに問いかける。
 
 「はい。メイラさんはかなりの腕だと。ご希望とあって、あえて苦言を呈しましたが」
 「ほー?」

 疑わしい目でアザァが隣のメイラを見る。

 「ふふん? イスキさんは誰かさんと違って見る目があるというか」
 「そう、だな。今の俺は見てやりたくても・・・」

 アザァが力なく笑う。確かに今のアザァの視力では、メイラの指導は不可能である。
 てっきり憎まれ口を叩かれると思っていたメイラは、急に真剣な態度になったアザァに慌てて。

 「あ、違うの。そんな意味で言ったんじゃなくて、ほら、ね?」

 しかし悲しげに首を横に振るアザァは。

 「このままイスキに面倒見てもらうのが、お前の為にもなるのかもな・・・」
 「ア、アザァ、違うの。ごめんなさい、違うのよ」
 「冗談だ、バカ」

 さっきまでの態度は霧散し、子供をからかうような顔でメイラを頭をポンポンと叩く。
 ようやく自分が遊ばれていたと悟ったメイラは、怒り心頭で顔を赤くし、

 「しゃれになんないわよだいたいねいつもいつもそうやっていじわるするけどいつかあたしだってあいそつかして」

 怒涛の如くまくしたてるメイラ、しかしアザァはポンポンと頭をなで。

 「お前みたいな可愛い女を、他の男の所へやるわけないだろ」
 「・・・え?」

 さきほどまで怒りで染まっていたほほが、たちまち羞恥の紅になり。

 「そ、そう、かな。あたし、可愛い、かな」

 もじもじとアザァを上目遣いで見るメイラ。
 だったのだが、そこには今まで最も嬉しそうな顔をしたアザァが、ニヤリと笑い。

 「冗談だ、バカ」
 「・・・」
 
 怒りが過ぎて嬉しさがやって来て、再びこみ上げてきた怒りをメイラはどう表現すればいいのかわからず、ただ、口をパクパクさせる。

 「で、そっちのスヴェツィアはどうだった?」

 メイラを完全に無視しつつ、イスキに問いかけるアザァ。

 「そうですね。片手剣の扱いに関しては問題ありません。あとは対する相手の動きや習性を熟知すれば、ひとかどのハンターとして名をはせる事でしょう」
 「ほー。高評価だな、スヴェツィア」

 さきほどから一言も会話に入ることなく、ひたすら食べ続けていたスヴェツィアが。

 「はえ、はひあおーご、んぐ、ごほっ!」
 「食うか、話すかどっちかにしろ」

 コクンとうなずき、口の中のものを飲み干したスヴェツィアは。
 再び、食べ始めた。

 「食う方を選ぶのかよ。まぁいい。イスキ」
 「はい」
 「しばらくは滞在するんだろう?」
 「そうですね。あと数日はこの街で過ごそうかと」
 「そうか、もう少しゆっくりしていって欲しいが・・・」

 弟子達はおそらく十数日で帰ってくるだろう。
 この国からまたモデストへ帰る日数を計算すれば、そう長居はできない。

 「まぁ、お前さんにも予定はあるだろうしな。で、明日の予定は?」
 「明日は私の動きを見てもらおうかと。お二人の参考になれば幸いなんですが」
 「そうか、手間をかけるがよろしく頼む」
 「いえ。私も今日は勉強させて頂きましたから」

 ようやく満足するまで食べ終わったスヴェツィアが。

 「先生、ごちそーさ・・・ま・・・」

 と言いつつ、メイラを見たとたん顔色を変え、正面のアザァに顔を寄せて。

 「あの、アザァさん・・・」
 「ん?」
 「先生がずーっとアザァさんの事をにらんでるんですけど?」

 そこでようやくアザァはメイラをからかっていた事を思い出し。

 「どうしたメイラ? かわいい顔が台無しだぞ」
 「・・・ふん」

 しかし、そんな言葉にもメイラは憮然とした表情のまま、アザァをにらみ続ける。

 「もう、そんな言葉にひっかからないから」
 「えらく不機嫌だな」
 「つーん」

 そっぽを向いて、あたし怒ってます、と体で表現するメイラ。
 こんな状況に慣れているスヴェツィアが懸念する事はただ一つ。

 「アザァさん、このままだと・・・明日の夜ゴハンが」
 「そうだな。確実に皿の数が減るな。下手すれば、何も出てこないかもしれんが」
 「それは困ります。私、先生のゴハンを人生で二番目の楽しみにしてるんですよ?」
 「第一は男か?」
 「もっとステキに恋と言ってくださいよー」

 仲良ささげに語らうアザァとスヴェツィアが気になるのか、チラチラと横目で様子をうかがうメイラ。

 「ところで、どうするんですか。先生、そうとう怒ってますよ」
 「そうだな・・・ところで、イスキ」
 「なんでしょう?」

 突然、声をかけられイスキが食事の手をとめる。

 「夜、騒がしくても眠れるか?」

 その言葉に、メイラの背中がピクリと跳ねる。
 イスキは、その言葉の意味を考え。

 「ああ、そういう事ですか。お気遣いなく」

 スヴェツィアもまたその意味をすぐに察し。

 「アザァさんって、身勝手な男のカッコよさが似合いますよねー」
 「うるさい、バカ弟子のバカ弟子。メシ食ったらとっとと帰れ。どうせまた男と待ち合わせしてるんだろう」
 「そういう言い方はちょっとヤダなぁ」

 アザァは立ち上がり、いまだ横で背を向けているメイラを片手で持ち上げる。

 「きゃ、ちょっと、アザァ!」

 もがき離れようとするメイラを、アザァはさらに強く抱き寄せる。
 そして、それだけで事足りた。

 「なんだ?」

 そう問われて、メイラはただうつむき、小さな声で。

 「・・・なんでも、ない・・・」
 「じゃ、二人ともそういう事だ。明日にそなえて休んでおけよ」

 スヴェツィアが、からかうように一言。

 「アザァさん、先生の体力も残しておいてくださいよー」

 アザァは肩をすくめ。

 「明日はイスキの見学なんだろ? 体力を残す必要なんかないさ」
 「うっわ、サイテーなのに、なんかカッコイイ」

 もはやメイラは、顔をただただ赤くしてうつむいている。
 そして二階にあがっていくアザァとメイラ。
 食卓にはイスキとスヴェツィアが残された。

 「さってと。イスキさん、本当に眠れますか?」
 「多少の物音くらいならば。身の危険を感じない限り、目は覚めず休めますよ」
 「でも、その、二人はこれから」
 「ええ。わかってます。こんな夜から室内で修練とは、さすがに私も意外でしたが」
 「は?」
 「私なりに、さきほどメイラさんが怒っていた理由を考えていたのですが」

 イスキはアゴに手をあて、朗々と自分が導いた回答を披露する。

 「さきほどのアザァさんとメイラさんの会話は、つまりメイラさんがアザァさんに稽古をつけていただこうと思っての事では?」
 「・・・はぁ?」

 スヴェツィアは目の前の男、イスキの顔をマジマジと見るが、どうにも本気で言っているらしい。

 「私は男女の機微にうといのですが、思い起こせば、実に艶のあるお願いの仕方だったかと」
 「・・・はぁ」
 「アザァさんも、メイラさんを可愛いとおっしゃっていました。実に勉強になりました。私はなかなかそういう事を口にする機会というものが計れず、弟子達にはただ厳しいと思われている事でしょう」
 「・・・」

 これはダメだと、これだけの会話で判断したスヴェツィア。
 そして胸元をさぐり、手にしたそれをイスキに手渡した。

 「あの、イスキさん、これ」
 「耳栓ですか?」
 「何も言わず、これをつけて今夜は寝てください」

 ヘタに様子を見に行かれても明日色々と困るしー、とスヴェツィアは二階への階段を見ながら呟く。
 耳栓を着け取ったイスキは、何か思いあたったように。

 「ああ、なるほど。お気遣いありがとうございます」
 「一応、聞いておきますけど・・・なにが、なるほどなんでしょう」
 「メイラさんの体力が尽きるほど激しい稽古となると、多少騒がしくなるのは仕方ありません」
 「あー、なるほどー、そうきたかー・・・ワザと言ってません?」
 「なにがでしょうか?」

 スヴェツィアは首を横に振り。

 「なんでもありません。では明日、またー」
 「ええ。また明日」





 翌日。
 昨日と同じように、イスキとメイラが酒場で、スヴェツィアを待っていると。

 「もう、しつこいなぁ・・・!」
 「話し合いましょう。私の何がいけなかったんですか?」
 「くどーい!」

 乾いた打撃音。
 それを見たメイラと言えば、見慣れた光景なのか溜息をついている。

 「メイラさん、スヴェツィアさんが何か揉めているようですが」
 「ああ、いつもの事ですよ。スヴェツィアの言葉を使うなら、始まりがあれば終わりがある、という事で。今はその終わりの部分ですね。これまたいつものように一方的ですけど」

 店の入り口でのたうつ男を尻目に、スヴェツィアはメイラとイスキの座るテーブルの空いたイスに腰掛ける。
 
 「すいません、先生ー。今日も遅れちゃって」
 「いいけど・・・あの人いいの? 昨日はあんなに誉めてたのに」
 「やっぱ弱い男はダメですねー。優しさは女心を暖めてくれますが、女としての本能は満足させてくれないというかー」
 「・・・生々しくなってくるから、おしまい。さ、イスキさん、行きましょうか」

 そうしてメイラが席をたつも、イスキは。

 「ええ。しかしその前に、スヴェツィアさん、これをお返しします」

 イスキは昨晩スヴェツィアにかりていたものを返す。
 メイラはそれを見て。

 「耳・・・栓?」
 「ええ。昨晩、スヴェツィアさんがこれを使った方がいいと」
 「スヴェツィア!」

 その意味する所をすぐに理解したメイラは、スヴェツィアの首根っこに腕を回し、締め上げた。

 「いや、だって、その・・・でも、そうだったんじゃないですか?」
 「う、ぐ・・・」
 「でも大丈夫ですよ。なんかイスキさんって、その手のコトに鈍感なんで意味わかってません」
 「そ、そうなの?」
 「多分、さっきの会話の意味もわかってないと思います」

 イスキを見れば、やはり普段とかわらぬ表情で二人を見ている。

 「あながち・・・嘘でもないみたいだけど」
 「なんというか、男として大丈夫かなーと思うくらいですよ?」

 それでもジッとメイラがイスキを見続けていていたせいか。

 「ああ、メイラさん。昨晩はアザァさんと稽古をされていたようですが、疲労は残っていませんか?」
 「・・・ええ、大丈夫です」
 「むしろ、元気でーす、とかなんとか・・・いたいいたいいたい!」

 容赦なくほほをつねられるスヴェツィア。
 
 「では、行きましょうか。イスキさん。今日はよろしくお願いします」
 「お、お願いしまふ」

 深く頭を下げるメイラと、ほほをさすりながら涙目で頭を下げるスヴェツィア。

 「こちらこそ、よろしくお願いします。ところでメイラさん」
 「はい?」
 「できれば私にも、室内でできる稽古というものを教えていただきたいのですが」
 「・・・アザァに聞いてください」





 昨日と同じくリオレイア討伐に向かった三人は、とどこおりなく目標を発見した。
 むしろ、異常な速さともいえる。
 密林という生い茂る木々の中にあっても、イスキの目は全てを見通しているようでもあり、目標発見の速さに二人はただ感心するしかない。
 イスキにとっては、火竜の習性をつきつめた結果、探すべき優先順位に従っているだけだったが、それでもその正確さは桁外れともいえた。

 「それでは、お二人は離れていてください」

 イスキだけが進み出て、あとの二人は距離をおく。
 それを確認したイスキがペイントを投げつけ、戦闘に入った。
 ここまでは問題がなかった。
 そしてリオレイア討伐という内容であれば、これ以降も問題はなかった。
 ただ。
 突如として現れた雄火竜リオレウスという要素がなければ。

 「レウス? つがいだったか」

 イスキは落ち着いた表情で、事実、まったくの冷静さをもって、状況を判断する。
 リオレイアは傷ついているとは言え、まだ余力を残した手負いの状態。
 むしろ、最も危険な状態とも言える。
 そしてこちらは無傷であるものの、メイラの弟子であるスヴェツィアという枷。
 イスキにとっては、雌雄火竜同時討伐というものは、難しいものではない。
 とは言え、それは己一人の場合だ。
 今のようにパーティーである場合、自分だけが狙われるとは限らない。
 むしろ、イスキほどの腕となると、竜の攻撃が分散するだけ、手間取る事は避けられない。
 メイラほどの腕ならば、補助役として充分であったが、スヴェツィアへの危険が及ぶ事は避けたかった。
 ならばここで最良の選択肢は、メイラがスヴェツィアを連れ帰る事。
 イスキはスヴェツィアの退避時間を稼ぐために、リオレイアへと閃光を投げ放つ。
 しかし。

 「イスキさん! あたしも戦います!」

 メイラがランスの穂先を揺らして駆けてくる。
 確かに二人で戦えば、討伐は迅速、そして確実に終えるだろう。
 しかしその間、スヴェツィアは無防備となる。
 
 「いえ、それよりもまず、スヴェツィアさんの避難を。ここは私だけでも充分です」

 目に光を取り戻したリオレイアを相手取り、イスキがメイラに告げる。

 「でも・・・イスキさんを残してなんて・・・」

 メイラはズウェツィアを見る。
 彼女は目にした事はあっても、まだ正面から対峙した事のないリオレウス相手に完全にのまれている。
 確かに段階を踏んで鍛えている途中のスヴェツィアにとって、リアレイアとリオレウスの違いは大きい。
 メイラにしても、リアレウスと戦わせるには時期尚早だとはわかっているが、イスキ一人を置いていく事はできない。

 「スヴェツィア、どう? 一人でも街へ戻れる?」
 「・・・」

 メイラはこれが最善の選択だと、スヴェツィアに問いかける。
 スヴェツィアはいまだ宙を旋回するリオレウスを見て、息を呑む。
 もしも逃げる自分を追ってきたら・・・そう考えているのは、はた目から見れば誰でもわかる表情。
 無理か、そう思ったメイラがイスキに次善の案を言い出そうとした時。

 「先生ー、私、大丈夫です、だから、イスキさんのお手伝いを・・・」

 実際、スヴェツィアの脚は震えている。
 メイラは一度まばたきし、すぐにスヴェツィアの頭をなでて。

 「さすがアザァの弟子であるあたしの弟子。大丈夫。イスキさんとあたしなら、すぐに二頭とも片付けるから」
 「は、はい」
 「スヴェツィアはあたしの家で待ってなさい。おいしいご飯、いつもより腕をふるってあげるからね」
 「わかりました! お気をつけて!」

 一度決心したら、動くのは早い。
 スヴェツィアは今きた道をたどって引き返していく。
 メイラはイスキへと向き直り。
 
 「イスキさん、あたしがレイアの相手を!」

 イスキはこちらへ向かって駆けていた。リオレイアはその後ろで倒れもがいている。
 その視線はスヴェツィアの背。
 スヴェツィアの動きは目立ちすぎたのだ。
 それに目をつけたリオレウスが、翼をはためかせ、その進路をスヴェツィアへと変えていた。

 「スヴェツィア!」
 「・・・あ」

 自分にその牙が向けられたと知り、立ち止まってしまったスヴェツィア。
 メイラはスヴェツィアの背を追って駆け出す。
 大剣やハンマーを扱うハンターの中には、急降下してきた火竜を叩き落すほどの者もいる。
 しかしメイラの得物はランス。それがかなわないならば、閃光による目くらましで落とすしか手段はない。

 「大丈夫、できる! 追いつく! 間に合う!」

 自分に言い聞かせるようにして、駆けるメイラ。
 しかし、中空にいる火竜相手に閃光を合わせるなどと、果たして自分にできるだろうか。
 そんな不安や焦燥が、メイラの視界を狭くしていた。
 リオレイアの存在を忘れるほどに。

 「せ、先生!」

 先に気がついたのは、自分を救いにきたメイラを見ていたスヴェツィア。
 いつの間にそこへ移動していたのか。
 メイラの背後、十数歩の距離で雌火竜は、大きく息を吸い込んでいる。

 「ブレス、きます!」
 「え!?」

 前方からはリオレウスの牙が空気を引き裂いて迫り、後方からはリオレイアが火球を吐き出そうとしている。
 凶暴な二つのそれは、一つの竜口のごとく二人を食いちぎろうとしていた。
 メイラはスヴェツィアの体を抱きしめ、身を硬くする。
 そんな一瞬という時間が、ひきのばされた瞬間。

 「二人とも、ふせなさい」
 
 追いついたイスキが、二人を地面へとかばう。
 そしてイスキは閃光を投げはなった。
 人はそれを芸術とは呼ぶかもしれない。
 しかし、正確に表すならば、ただ技と言うべきだった。
 飾りたてる一切の必要のない、技。
 イスキの放った閃光は、直線上に並んだ二つの竜の牙を防いだ。
 目をやかれた二つの巨体、赤い牙が地に落ち、開けられていた緑の口がひるむ。

 「すごい・・・」

 スヴェツィアの呟きに、目を閉じて弟子の身をかばっていたメイラも状況を把握する。

 「今ならば、大丈夫です。メイラさん、スヴェツィアさんを」

 メイラも一人でスヴェツィアを帰す事を考え直し、弟子の手をとるが。

 「大丈夫です、今なら!」

 そう言って、駆け出した。
 ついさきほど、自分へ死を振りまこうとした赤い巨体の脇をすり抜けるスヴェツィア。
 誰もが出来る事ではない。
 
 「スヴェツィア・・・」
 「強いお弟子さんですね」

 イスキはメイラに手を差し出す。
 メイラがそれをとって立ち上がり。

 「ええ・・・あたしの自慢の弟子ですから」
 「彼女は強くなれます、必ず」

 そしてイスキはメイラに背を向けて、リオレウスを正面からとらえる。
 
 「では、始めましょう」

 メイラもまたイスキに背を預けて、リオレイアへとランスをかかげる。

 「はい、すぐに終わらせましょう」


 


 「はぁ・・・はぁ・・・はー・・・」

 かなりの距離を走り続けたスヴェツィアは、ついに立ち止まった。
 座り込むことはしない。いつ、どこに、どんな危険があるかはわからない。
 とっさに体を動かせないような体勢をとる事は、死に直結する。
 けれど、とりあえずの危険からは遠ざかった。
 はずだった。

 「あとは、街に帰るだけ、ね・・・」
 「ふん、それは無理な話だ」 

 男の声がすぐ背後から響く。

 「え?」 

 全くの不意をつかれ、スヴェツィアは背後を振り返る。
 その瞬間、激しい衝撃がスヴェツィアの頭部に響く。

 「う、あ・・・」

 そしてそのまま倒れこむスヴェツィア。
 男は気絶したスヴェツィアを担ぎ、また森の中へと戻っていった。





 「どうでしたか、メイラさん?」
 「いえ・・・まだ、あたしの家どころか、街にも戻ってないみたいで」
 「そうですか、私もまだ彼女を見つけられずにいます」

 雌雄同時討伐を終えた二人は、安堵するスヴェツィアの顔を見るべく、すぐに街に戻ったのだが。
 それを迎えたアザァの一言は。

 「今日はスヴェツィアいないな。メシ抜きなのか? それともなんかヘマしてメイラを怒らせたのか?」
 「え?」
 「アザァさん、スヴェツィアさんは先に戻ったはずなんですが、まだこちらに来られてませんか?」
 
 そこでようやくアザァも事情を察したらしく、いつもの皮肉交じりの笑顔が消え。

 「いや、俺はずっといたが、スヴェツィアは帰っていない」
 「メイラさん、戻りましょう」
 「はい! アザァ、もし彼女が帰ってきたら、酒場へ連絡いれて! 誰か使いを出させて知らせてね!」

 アザァはうなずき。

 「ああ、気をつけろよ」

 と、言って二人を送り出した後、小さく。

 「道化芝居と言えど、アイツもご苦労な事だ・・・とは言え、今の俺には道化を演じる以外の選択肢はない、か」

 日の落ちた夜でさえ、鮮明とは言いがたい己の視力。

 「俺の目が先か、向こうが先か・・・」

 いつもの椅子から月を見上げる。
 白銀の月光は、アザァの心を癒してくれる唯一の存在だった。
 瞳を閉じれば、暗闇を照らす月と同じ色の髪を持つ女の顔が浮かぶ。

 「・・・」

 声にならない声、ただ唇を動かすほどの声で、その名を呼ぶ。
 喉が枯れるほど大声で呼びかければ、彼女が答えるというならば、アザァは血を吐くまで呼び続けるだろう。
 けれど、アザァの声は届かないのだから・・・
 ただ、自分の胸の中で笑い続ける彼女にだけ届けばいい。
 何度も、無言の声で呼びかける。
 月はただ、いつまでもアザァの体を照らしていた。





 「そんな・・・」

 メイラはあせる。
 スヴェツィアの姿を求めてたどりついた場所に、しかし弟子の姿はなかった。
 そこには片手剣と対の盾だけが残されている。

 「もしかして・・・」

 ここは火竜が頻繁に出没する場所でもある。
 嫌な予感が脳裏をかすめる。

 「何か・・・何でもいい・・・」

 メイラはこの場所にどこかに、次の手かがりがないかと暗闇に目をこらす。
 特に竜の残した足跡がないかと、地にヒザをつけて丹念に注意深く観察する。
 と、そこへ。

 「あ、先生」
 「・・・」

 メイラの後に続くようにして、スヴェツィアもその場に現れた。のだが。
 しかしメイラはズゥエツィアに気づかない。
 焦燥と集中が高い緊張感を視線に込め、何かを探すメイラの姿。
 それは間違いなくスヴェツィアを心配しての行為。スヴェツィアは心から嬉しくてたまらない。

 「先・・・」

 呼びかける声を途中でとめるスヴェツィア。
 もう少し自分を心配してくれるメイラを見ていたい。そんな衝動にかられ、スヴェツィアは腰をおろした。
 少し離れた場所。と言っても十数歩の距離から、スヴェツィアはジッとメイラを見つめている。
 とても嬉しくて。けれど、少しだけ妬ましくて。

 「・・・ごめんね、先生。でもホントに大好きだよ」

 スヴェツィアの呟きに続くようにして、横の茂みからから人影が現れた。

 「あ、イスキさん」
 「スヴェツィアさん、ご無事でしたか。ところでメイラさんは何を?」

 メイラは相変わらず地面を凝視しながら、

 「いやー、えへへへ。なんというか愛が痛いというかくすぐったいというか」
 「よくわかりませんが、このままでいいのですか?」
 「ええ、あと少しだけお願いしますー」
 
 メイラが求める痕跡は一切なかった。
 かなりの時間がかかっている。こうしている間にもスヴェツィアの身は危うくなっているはずだった。
 それでも諦めきれず、メイラはもう一度最初から見直そうとした時。

 「あ、れ?」

 そこに立っていたのは、イスキとスヴェツィアの二人。

 「あれ、あれ?」
 「どれですか、先生?」

 自分を指差すメイラに、スヴェツィアはわざと背後を振り返ってからかう。

 「スヴェツィア! いつからそこにいたの!?」
 「いえ、ずいぶん前に・・・私、声かけたのに、先生ったら、こっちも見ずに地面とにらめっこしてて」
 「・・・え、と。イスキさんはいつから、そこへ?」
 「私も少し前に。スヴェツィアさんに言われて、声はかけませんでしたが」

 メイラは遊ばれたと知り。

 「スヴェツィア! あなたね、ふざけていい時と悪い時が!」
 「先生ー、大好きですよー」

 かまわず抱きついてくるスヴェツィアに、メイラは困惑しイスキに視線を向ける。

 「イスキさん?」
 「スヴェツィアさんは、メイラさんが自分を心配してくれている姿に感動して、もう少しだけこのままでと私にそう言われました」
 「・・・あ、いや、まぁ師匠として当然かな、と」
 「先生、私、感動しました。なんか涙でちゃうくらいに」

 あははは、と照れ笑いしつつ、メイラはスヴェツィアをひきはがし。

 「心配したわよ、急にいなくなるから。どうしてこんな所にいるか覚えてる?」

 ふと、イスキがその会話に不自然さを覚えるも、それが何かわからず話は進む。

 「いやぁー、それがですね。さっぱりなんですよ。急に頭が痛くなって、気がついたらこんな所に」
 「そう」

 なぜか安堵するメイラ。ちぐはぐな反応であるが、自分よりも長いつきあいであるスヴェツィアが何も言わない所を見ると、二人には普通の会話なのだろう。

 「それで気がついたら、誰もいなくて。先生を探してたんですけど見つからなくて。とりあえずここに置きっぱなしの盾だけでも拾って街に戻ってみようと思ったら、先生がいたんですよ」
 「・・・あれ、そういえばここにあるのは盾だけね」

 片手剣は、小ぶりな剣と盾、対になって初めて武器となる。
 しかしスヴェツィアの手に剣はない。

 「剣はどうしたの? どこかに置いてあるの?」
 「・・・うううう」

 とたん、うつむき、震え始めるスヴェツィア。

 「ど、どうしたのよ?」
 「私のメイメイ・・・滝に・・・うわーん!!」
 「メ、メイメイ?」
 「私の剣の名前ですよぉ。メイラ先生に買ってもらったハンターナイフの時に名づけたのに・・・」
 「そ、そうなんだ」
 「さっき倒した得物に刺さったまま、河に流されて・・・滝に落ちたー!! ああーん!!」

 普段、男を手玉にとっているスヴェツィアからは想像できないような乙女趣味にメイラも少しあとじさる。
 自分の名前をとってつけたというのは、それだけ好かれている証拠なのだろうが。
 正直、自分の名前がついた剣が毒剣で、しかもそれが竜の血で染まっていたかと思うと・・・

 「わ、わかったわ、あたしがまた贈ってあげるから・・・ね?」
 「え、本当ですか?」
 「ずいぶん強くなったし、ごほうびよ。でも、一つ条件があるわ」
 「なんですか? あ、いえ、わかりました・・・一晩といわず、いつでもどうぞ・・・先生なら・・・」

 ポッと顔を赤らめ、モジモジしつつも、メイラを見つめるスヴェツィア。

 「違う!」
 「え? という事は・・・もしかして三人!? でも、アザァさんワリとけだものだもの! ありえなくもない!?」
 「・・・」
 
 さらに身をよじるスヴェツィアに、メイラがわりと本気で拳を固める。

 「わかってます。冗談です。すいませんでした。で、条件というのは?」
 「・・・条件は、剣にあたしの名前をつけない事」
 「えー!?」
 
 心外だという反応に、メイラはさらに心外だという反応を返す。

 「えー!? じゃないわよ。自分の名前がついた剣が、くぢょぐちょになるのって、どうなのよ、実際!」
 「あー・・・背徳的なカンジがしますね?」
 「しない!」
 「わかりました。じゃあ・・・アザァとか?」
 「もっとダメ!」
 「どうすればいいんですか!」
 「どうもしないわよ!」

 平和なやりとりの中、一人だけ口を閉ざしていたイスキが一言。

 「アザァさん、食事もとらず、まだスヴェツィアさんの心配をしているのでは?」
 「あ!」
 「あーあ、先生、今夜は違う意味でいじめられちゃうー。もしや確信犯?」
 「ち、違うわよ、とりあえず帰るわよ! イスキさん、全速力で!!」

 スヴェツィアの手をとって走り出したメイラの後に続いて走り出すイスキ。

 「ええ、早くスヴェツィアさんの無事な姿を見せてあげましょう」
 「そんなのどうでもいいですから!」
 「そんなの扱いー! 二代目はメイランちゃんに決定!」


 


 その後。
 イスキは数日をアザァ達とともに過ごし。
 弟子達の待つモデストへと帰る日がやってきた。
 最後の朝食の席で。

 「まぁ、なんだ・・・あんまり役に立てなくてすまないな」

 アザァはイスキが弟子の育て方を乞いに来たのを思い出す。

 「いえ、とても参考になりました。メイラさん、ありがとうございました」
 「とんでもないです・・・その色々と恥ずかしいところも見せてしまって・・・」

 見送りがてら、いつもは朝食の席にはいないスヴェツィアの姿もあり。

 「ほんと、色々と恥ずかしいですよねぇ。たまに私でも恥ずかしいですからねー、あ、先生、ウソです!」

 皿を取り上げられそうになって、慌ててメイラにすがりつくスヴェツィア。

 「スヴェツィアさんにも色々と教わりました。ありがとうございます」
 「ほー? いったい何を教えたんだ?」

 アザァがスヴェツィアを見る。

 「いえ? 何かお教えできるコト、私にありましたっけ?」
 「女心を。参考になりました。これまでのスヴェツィアさんの言葉と意味をここにまとめてみたのですが・・・」

 イスキは小さな紙の束を取り出し、箇条書きのそれを読み上げいていく。

 「女のイヤという言葉に意味はない。その場合は表情で判断しろ。ここで間違いは許されない」 
 「は?」

 メイラが首をかしげ、スヴェツィアを見る。

 「髪型を変えたらまず誉めろ。どっちが良かったと聞かれたら、今の方がいいと言え。この場合女は意見を求めていない、同意を求めている」 
 「あーそれってー」

 スヴェツィアがポンと手を叩いて納得する。

 「抱き寄せる時は優しく。抱き寄せた後は強く」
 「ほう」

 アザァが感心しつつスヴェツィアを見る。
 イスキは紙の束を閉じ。

 「異性の弟子育てる為と、私に教えて頂いた貴重な意見です。早速帰ったら弟子たちに使わせて頂きます」

 頭を下げて礼をのべるイスキにスヴェツィアはちょっと困った顔になったが。

 「イスキさん、本気にして・・・ま、いいかー」

 特に深く考えることなく食事を再開したスヴェツィアの頭に拳が飛ぶ。

 「よくない! イスキさんの人格疑われるわよ!」
 「・・・まぁいいんじゃないか、イスキにはそれぐらいで」
 「アザァ!」

 苦笑するアザァ。
 メイラだけがイスキに「違うんです、それは頭が桃色女の妄想で・・・」と修正しようとしている。
 こうしてイスキは己に課した訓練は、自分としてはなかなか満足のいく結果に終わったのである。





百禍繚乱 〜カゲロウ・ハクジツ〜 END






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