誇り高き女ハンター (後編)






 途中、リオソウルの男は五度、その剣を抜いた。
 そして全てのレウスを殺さず追い返し、またレンシィに近づける事すらなかった。
 そのつど、レンシィは感嘆し、同時に鼓動を早まらせた。
 危険を感じて、ではない。違うものを胸に感じて。
 それはますます高まり。

 「ここを抜ければ、私の目的地なの」
 「ふ・・・ん。女にしては静かなものだったな」
 「ふふ」

 洞窟に二人が入ると、そこには眠ったレイアが中央にたたずんでいた。
 ゴクリと喉をならすレンシィだが。
 リオソウルの男は、やはり相変わらずだった。
 待って、と声を出すのを押さえ、足早にその背についていく。

 「少しくらいの音では目覚めない。ゆっくりついてくればいい」
 「・・・う、うん」

 レイアの大きな顔が真横に迫る。
 レンシィは足元に転がる骨や木を踏まぬように、ゆっくりと・・・

 パキッ!

 「え?」

 すぐさま足元を確認する。
 音をたてるようなものはなにもない。レンシィの足元には。

 パキ、パキ、パキ・・・

 リオソウルの男は、さらに足音をたてて歩き続けていた。
 小さな小さな音なのだが、神経質になっていたレンシィには、それは大きすぎる音だった。

 「ちょっと・・・!」

 その声で、レイアの目が開いた。

 「だから女はうるさい・・・と言ったんだ」
 「ごめ、その、あんたが音立てて、って近い近い!」

 リオソウルの男はすでに抜刀している。

 「離れていろ」
 「あ、うん! きゃあ!」
 
 骨の破片に足を滑らせ、レンシィがレイアの足元へ転倒する。

 「ひ・・・」
 「チッ」

 レイアが牙をむいて、レンシィに襲い掛かる。
 レンシィの視界を埋めていた凶暴な牙が、青色にとってかわった。
 続けざまに、腕をひっぱられ、景色が天地を交互に回っていく。
 激しい衝突音が洞窟に響いた。

 「いた・・・あ・・・」
 
 レンシィが転がり倒れた所へ、青いカブトが飛来してきた。
 ひしゃげたそれは、ところどころ赤いものがついていた。

 「大丈夫か!」
 「あ・・・あ・・・」

 レンシィに背を向け、レイアに対峙したまま、リオソウルの男が声をはりあげる。
 黒髪が血に濡れていた。
 
 「大丈夫なのか!?」
 「う、うん、ごめ・・・」
 「離れて伏せてろ!」

 男の雰囲気が、それまでとは明らかに違うものになる。
 追い返す為ではなく、倒す為の動きが、これなのだろう。
 頭部に一撃を入れ、ひるんだ隙に背を向けて閃光弾を投げる。
 まともに目を焼かれたレイアの腹をくぐり抜け、尻尾をまたたく間に切り落とす。
 返す刃で、足へと間断なく剣をなぎ払う。
 それは今までの戦いよりも荒々しく、嵐のようでもあった。
 
 「綺麗・・・」

 レンシィはそれを美しいと思った。
 男なんて、酒と女の事しか考えてない。
 男なんて、一人じゃ何もできやしない。
 戦う事そのものを誇りにしているような、野蛮で、汚くて。
 だから、時にそんな男を利用するのにも罪悪感どころか、達成感すらあった。

 「・・・違う。いいわけでしかない」

 『孤高の鷹』などと呼ばれても、女一人じゃなにもできないと知っていた。
 けれど、それを認めたくなくて、一人で戦ってきた。
 『蜘蛛の碧眼』と何もかわらない。
 むしろ、彼女の方がよほど前向きだ。
 現実を受けいれた上で戦っている。
 それすらも認めたくなかった。
 だから、気づかない振りをして、一人で居続けた。

 「・・・」

 目の前で戦っている男は、なぜこんなにも綺麗なのだろう。
 自分と何が違うのか。

 「目的があるから・・・それに真っ直ぐだから・・・」

 男は目的があり、その為に危険な道もいとわない。
 そして、強く優しく、自分を飾らない。
 とても単純で、とても難しい事。
 そうやって生きているからだと、レンシィは感じた。
 自分はどうだ?
 二人を育てる為なら、何も危険な事に手を出さなくてもやっていけるだろう。
 それでも、この世界にいるのは、名誉や金銭が目的だったからとは言えないか?
 確かに二人を養っても余裕のある生活。
 自分を知る者から注がれる、尊敬の視線。
 悪くはない。
 そう思うから、自分は・・・

 「綺麗になりたいな」

 やがて、戦いは終わった。
 いつしかレンシィは泣いていた。
 涙の理由はわからない。ただ、溢れてとまらなかった。

 「どこか痛むのか?」

 とめどなく流れる涙に、リオソウルの男がヒザをつき、レンシィをのぞきこむ。
 
 「ううん、大丈夫。大丈夫・・・?」

 笑って涙をぬぐいさり、近づいた男の顔を正面から見て。

 「・・・だれ?」
 「は?」

 それは、朝見た男ではなかった。
 さきほど男は顔じゃないと思いなおしたのだが。

 「・・・」

 強くて優しい上に美形なら、この上ない。
 
 「なんの事だ?」
 「ああ、ごめんなさい。今朝、酒場にいた?」
 「いや?」
 「あはは。やっぱり私の人を見る目は確かなんだ」

 一人納得のレンシィに、黒髪の青年は首をかしげる。

 「まぁ、いい。目的地はどこだ?」
 「あ、うん。ここを抜けてすぐだから・・・」

 レンシィが走り出し、洞窟を抜ける。
 男がついていくと、そこには、見たこともないものがあった。、

 「なん、だ? これは・・・」
 「初めて見るでしょ、ここまでのものは」

 そこには見たこともない大木がそびえており。
 至る所に、巨大なハチの巣が木の実のように垂れ下がっていた。

 「すごいな・・・」
 「人の手がはいらないし、ここの密林のハチは群れそのものが群生してるみたいで」

 大木の下には、ハチミツの雫が固まり、さらにその上からハチミツが貯まっている。
 まるで宝石を散りばめたかのように、陽の光で輝いている。

 「明後日は市場の特売日なの。その素材を卸すのが私の仕事」

 仕事道具を取り出し、レンシィは慣れた手つきでハチミツを回収していく。

 「普段は絶対こないけど、商売敵に狩場を荒らされちゃって・・・」
 「そうか」
 「バカとか言わないんだね」
 「何をだ?」
 「ハチミツの為なんかに、こんなトコまで来てとか、さ」

 黒髪の青年は、首を振る。

 「人にはそれぞれ事情がある。それにハンターにミツは必需品だ」

 琥珀色の宝石をひとすくいし、口に運ぶ。

 「なにより、ここまでの危険を冒しても採集する、誇り高いあなた達には感謝している」

 ああ、と思う。
 彼の中では私もハンターなのだ。彼と同等のハンターなのだ。
 さきほどまではただの守る対象でしかなかった、足かせのような私に礼まで。
  
 「バカにされる事もあるんだ。ハンターのやつらに」
 「そういった者をハンターとは呼ばない」
 
 迷いのない一言。

 「採集なんて、新米のやる仕事だとも言われる」
 「知識、経験、なによりも防具すらつけずに身軽さを選べる度胸は新米にはない」

 尊敬すら感じられる一言。
 レンシィは防具をつけていない。
 鉄のすれあう音や、長距離を移動するには向いていないからだ。

 「オレは謝らなければいけない」
 「え?」
 「最初から採取ハンターとはわかっていたが、ここまでの人とは思わなかった」
 「・・・えっと?」
 「たいていの採取ハンターは、名誉や金銭の為に無理をする」
 「・・・」

 図星だった。

 「だから突き放せば諦めると思った。だが、中には君のような英雄が、ごくわずかにいる」
 「・・・謝らなくてもいい。だって、私は・・・そんなのじゃないから」
 「違う。愛するものの為に無理をする事は、勇気と言う」
 「そんな事ない。そんな上等なものじゃない。名誉だって、尊敬だって欲しいから」
 「誰からの?」
 「誰って・・・そりゃあ街の同業者とか・・・」
 「言い方を変えよう。君が一番、尊敬されて嬉しいのは誰だ?」
 「え・・・えっと・・・」

 『蜘蛛の碧眼』には恨まれるだけだし、商売先には確かに喜ばれるが。
 嬉しいというのは少し違う。

 「鈍いな。オレでもわかる答えだ」
 「え?」
 「待ってる二人だろう」
 「あ・・・」

 そうだ。
 彼女が家に帰り、持ち帰った命といっしょに抱きしめる二人の子。
 
 「帰ったら、冒険話をしてやるだろう」
 「うん」

 二人は夜も更けてさえ、土産話をねだる。
 買ってきた服も菓子も放りだして。

 「笑うだろう? 喜ぶだろう?」
 「うん・・・うん・・・」

 今日はよく泣いてしまう。
 痛みにも恐怖にも、涙など流さないのに。

 「それにいつまでも応えてやりたいと思うか?」
 「・・・うん」

 黒髪の青年は、レンシィの頭をなで。

 「それが誇り、だ」
 「あ・・・ああああ!」

 たまらず抱きついた。
 誰かにわかって欲しかった。
 自分がしっかりしなければ、自分だけでやらなければ。
 だけど、寂しかった。
 寂しい世界で、ただ生きるだけでは辛すぎた。
 だから求めた。愛情を、共感を、優しさを。
 二人の子供はそれをくれた。
 だから、自分は常に立っていたかった。
 目標となれるように。
 自慢できるように。
 私の家族である事を恥じることのないように。
 そうなって、彼女はますます孤独となった。
 張り裂けそうな緊張の毎日だった。
 けれど、それを理解してくれる人がいた。
 それが誇りだと、教えられた。
 あらゆる胸のわだかまりが、涙と一緒にとけてこぼれていった・・・






 「ごめんなさい。みっともない所ばかり見せて・・・」
 「いいさ。オレも勉強になった」
 「なにが?」
 「誇り高い女性もいるという事だ」
 「・・・恥ずかしいから、もうやめて」
 「ははは、悪い」

 結局、黒髪の青年は、シンシア入りを先延ばしにして、レンシィを送ってくれた。
 今は密林の中、行きに通った道をたどっている。 

 「あと、ごめんなさい。カブト・・・」
 「かまわないさ。別にリオソウルの装備にこだわりはない。何か代わりを作るだけだ」

 軽く言う。
 確かにこの男の腕ならば、同等のものはすぐに用意できるだろう。
 しかし、それではレンシィも納得がいかない。

 「これ、卸したら少しはお金入るし、素材とかは無理だけど、弁償するから・・・」
 「気にするな」
 「でも・・・いくらくらいのものなの?」
 
 黒髪の青年は苦笑して、値段を告げた。
 彼女なら自分で調べかねないと思ったのか、正直な値段を口にする。

 「そんな・・・に?」
 「まぁ、うん」

 とてもではないが、払える金額ではない。
 ハンターの、それも上位の者が持つ者が高価とは聞いていたが。
 しかし、それだからこそ、レウスの炎すら耐える品なのだろう。

 「・・・そんなにお金ないから」
 「いいさ。君の命には代えられない」

 レンシィはずっと、言い出せずにいた質問を投げかける。

 「女は顔じゃないって言ってたけど、私の事・・・どう思う?」
 「ん?」
 「いや、その。こう、なんていうか、さ」

 照れ隠しに笑いながら、なんでもないような雑談話を意識する。
 すると、黒髪の青年も気軽に、

 「可愛いと思うよ。お世辞じゃなくてな」
 「じゃあ、その・・・好み?」
 「可愛い女性が嫌いな男は少ないと思うけどな。恋人が羨ましい」
 「いや、いないよ。そんなの」
 「見る目がないな、君の街の男どもは」

 レンシィは、それを聞き、わずかな勇気とともに、声を絞り出す。

 「じゃあ、あのさ。払えるもので報酬だす、から・・・」

 黒髪の青年は苦笑する。
 誠意には誠意をと思っているのか、話が平行線をたどっても、あしらう事はなかった。

 「その金で、二人に何か買ってくれ。オレからの贈り物としてな」
 「・・・お金じゃなくてさ。最初に言ったでしょ?」

 レンシィは、黒髪の青年によりかかる。
 
 「いや、そういうつもりでオレは」

 少しばかりの怒気をはらんだ声に、レンシィは慌てて否定する。

 「わかってる! 失礼な言い方なのは謝る! けど、私が・・・払いたいから。受け取って欲しいの」
 「・・・」
 「もし許されるなら、ずっと側にいたいし、どこだってついて行く」

 黒髪の青年は何かを思い出すように。
 しかし、あまりいい思い出ではないのか、苦悶の表情すら浮かべている。
 けれど、何かの希望を探してあえぐ、虜囚のような瞳で。

 「君は尊敬できる女性だ。けれど」
 「けど?」
 「オレはつまらない男だ。恨みも買ってるし、追われる身でもある」
 「いいよ」
 「シンシアに逃げ込んだ所で、安住は無理だ」
 「いいよ」
 「君には二人の家族がいるだろう?」
 「う・・・」

 レンシィは言葉に詰まる。
 女として、この男の側にいたい。
 しかし、あの二人を置いて行くなど考えられない。
 つまりどっちをとるか・・・
 と、答えの出せない問いにうめく中、青年の言葉は続いていた。

 「まだ小さいようだし。そんな子たちに、そういう安定しない生活は・・・」
 「連れていっていいの?」
 「置いて行くつもりか? いや、そうじゃなくて、幼いうちから、そんな生活はだな・・・」

 レンシィは黒髪の青年を抱きしめる。
 この人ならば大丈夫。どこだって、いつだって、きっと大丈夫。

 「き、聞いてるのか?」
 「二人なら大丈夫。私もふくめてみんな孤児だったんだから、色々と慣れてるし」
 「いや、だからこそ、落ち着いた場所でだな」
 
 レンシィに迷いはない。
 すでに子供の事を前提に話をしているような男だ。
 
 「あなたがいないと、私がもう落ち着かない!」
 「あー、そのなんだ。悪かった」
 「悪いと思ってる? 思ってるなら・・・さ」

 レンシィは、その黒髪を両手で抱きとめる。
 手当てはしたが、乾いた血が髪が固まっていた。

 「これからも手当てをさせて。ずっとハンターとして生きていくんでしょ?」 

 真剣に。ただひたすらに。
 黒髪の青年は、目を閉じた。

 「・・・いつ死ぬかわからない。オレなんかが誰かと暮らしていいはずがない」
 「あなたは強いわ」
 「・・・オレには何もない。守るべきものも、君のような誇りも・・・」
 
 黒髪の青年の唇がふさがれた。
 慌てて目をあけると、レンシィは涙を浮かべて笑っていた。

 「私じゃあなたの誇りになれない?」
 「・・・」
 「寡黙で、大人しい女になれるように頑張るから・・・」
 
 黒髪の青年は空を見上げる。
 曇り空は、いつしか晴れ渡り、太陽が青年の瞳で輝いている。
 やがて。

 「そのままでいい。そのまま君だから、誇りになる」
 「・・・本当に? 私でいい? 子供も二人いるけど、後悔しない?」

 もう黒髪の青年に迷いはなかった。

 「誇りは多い方がいい」
 「・・・ありがとう・・・あ・・・」
 「ん?」

 レンシィは、今更ながらに気づく。

 「あ、あのさ。順序が逆だけど、その名前知らない」
 「・・・ああ、そうだったな」
 「私はレンシィ。一応、仕事仲間の間では『孤高の鷹』なんて呼ばれてる」
 「君が、あの『孤高の鷹』か。耳にした事はあったよ。君がいる街の市場なら手に入らないモノはないって」
 「言いすぎよ、でも嬉しいわね、そういうの」

 で、とレンシィは続ける。

 「それだけ強ければ、二つ名もあるんでしょ?」
 「あー・・・『黒き灼熱』とかなんとか・・・勝手に呼ばれてたな」

 黒髪の青年は、思い出したくない古傷に触るように、呟いた。
 驚いたのはレンシィである。

 「うそ! ノーブルの英雄じゃない! なにしてんの、こんな所で!」
 「プロポーズされてた」
 「いや! そうじゃなくて! 何かとんでもない事件とかに巻き込まれて、追われてるって・・・!」
 「だから、そう言っただろう」
 「・・・言ってた」
 「やっぱり、やめておくか。楽な暮らしなんて・・・」
 
 レンシィはその言葉を最後まで言わせない。

 「あなたがいない、これからなんて、考えられない」
 「・・・ありがとう」

 笑いあって。

 「・・・で、『黒き灼熱』って呼ぶの、私? 長いからヤダなぁ」

 クスクスと笑い続けるレンシィ。
 そこに暖かさを感じて、青年は自分の名前を口にした。

 「ああ、そうだった。オレの名前は・・・」

 すぐ近くで、レウスの悲鳴が響き渡った。
 戦闘が行われていたとは、全く気づかなかった。
 視界は木々でおおわれているし、近くには大きな滝もあり、音もかき消されてたようだった。
 低空で、二人の上を飛び去っていく、傷ついたレウス。

 「逃げたー!」
 「逃がすか!」
 「ふふふふ!」
 「ま、待って、目的は、この先のハチの巣で・・・!」

 飛び立ったあたりから、四人の女性が飛び出してくる。
 密林の視界の悪さは、あらゆる生き物にとって平等だ。
 ただ、それが出会ったとき、狩るか、狩られるかの存在にかわる。
 そしてアザァは間違いなく、狩られる側だった。









 
 ある日、シンシアのとある街の酒場で三枚の依頼書がはりだされた。
 目ざといハンター達が集まり、注目する。
 一枚目は、女性の文字だった。





 捕獲クエスト

 アザルーを捕まえろ!

 依頼主:三人のかよわい女性ハンター
 メラルーよりも大好きな、アザルーがまたしても逃げてしまったの!
 だれかアタシ達の代わりに、捕まえてきて!

 報酬金  : 三人で一晩お酒つきあいます。お酌あり。酒代・食事代、当方持ち。
 契約金  : 0z
 制限時間 : 無制限



 酒好きが集まるこの街では、それは魅力的な依頼だった。
 酒と女と狩りだけが、生きがいの、けれど洒落も好きなハンター達は、自分が自分がと依頼を受けようとする。
 その中で、先日までメリーにいたハンターが、今度は酒代つきかと、口にしていた。
 やがてハンター達は、もう一枚の依頼書に目をやった。
 こちらは男の依頼主だった。ただその字は焦って書きなぐったかのように、荒れている。





 討伐クエスト

 三頭の凶龍3

 依頼主:傷だらけの青年戦士
 火を吐く紅の龍、全てを破壊する金色の龍、爆発を撒き散らす黒い龍。
 俺はそれらに追われ続けている。どうか、この三頭を倒してほしい!
 奴らはどこまでも俺を追ってくるんだ。ますます凶暴になっている!

 報酬金  : 45000z(別途、薬、弾薬代、その他の必要経費も別支給)
 契約金  : 0z
 制限時間 : 俺の命が尽きる前に。



 これもまた、ハンター達の琴線に触れる依頼だ。
 見た事もない龍をそれも三頭。しかも必要経費は依頼主持ちで、契約金もなし。
 これだけの好条件で、武者震いをしないハンターはこの街にはいない。
 すでに数人がカウンターへ走り出している。
 最後の一枚は、また女性の依頼。





 採取クエスト

 琥珀色のソウルハート

 依頼主:子連れの若い女ハンター
 
 この世でただ一つしかない、リオソウルハートを手に入れる為のお手伝い。 
 黒い瞳のリオソウルの所へ私達を連れて行って下さい。
 情報提供者にも、報酬あり。

 報酬金  : ハチミツ・竜の爪・カラ骨【小】一年分
 契約金  : 0z
 制限時間 : 無制限





 変わった依頼だったが、これもまた初耳だった。
 モノブロスハートは確認されている素材だが、リオソウルハートというものは誰も知らない。
 報酬は、先の二つと比べれば落ちるが、それでもかなりのものだった。
 好奇心も旺盛な数人のハンター達は、さっそく依頼を受けようとカウンターへ。

 「この国は、気のいいヤツが多いんだな」
 
 先の二つの依頼の正体を知っていた流れのハンターの言葉に、皆が注目する。

 「最後のは知らないが冗談だぞ? 他の国にもあったし文面もだいたい同じ。真面目に受けるものとは趣向が違う」

 だが、シンシアのハンター達はいっせいに笑い出す。

 「嘘でも本当でもいいんだよ。俺達はハンターだ!」
 「それにこの国じゃ依頼の報酬金は先払い。あれだけの金を冗談で張るとはたいしたもんだ!」
 「なぁ、もし本当だったらどうするよ!? そう考えただけで、胸が踊るだろ!」

 流れのハンターは呆気にとられる。
 自分よりも彼らのほうが、よほど笑いと息抜きの意味を知って楽しんでいる。

 「この国のハンターは、気持ちのいいヤツばっかりだな」
 
 シンシアのハンターはまた笑い出した。





誇り高き女ハンター END






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