『三人娘』
ナイナの様子がおかしい。
二人がそう気づいたのは十日ほど前。
最近のナイナは、いつもそわそわしている。
たまにフラリと街へも出かけている。
「男かも」
「確かめる必要があると思う」
「さすが長年の戦友。気が合うね」
「ええ。結果しだいで、戦友が一人減るかもしれないけどね」
サーシャとリエッタは意見の同意をみた。
これは裏切りである。
いつか英雄と呼ばれるその日まで。
一切の寄り道はしないとともに誓ったのに。
その日も、ナイナは一人で出かけていた。
確かに依頼のない日まで一緒にいる必要はない。
しかし、三人はいつも一緒だった。
チームワークにかかわるコトである。
負け犬と化した二人は大義名分の名の下に、尾行を開始した。
街の噴水で立ちどまるナイナ。
石造りの噴水に腰をかけて、辺りを見回している。
二人は気づかれないように、物影に隠れて観察している。
ナイナはお気に入りの白い服と帽子をかぶっている。
はたから見れば、ちょっといいトコのお嬢さんに見えないこともない。
「やはり男を待ってるかも」
「確実に男を待ってるよね」
二人は悲しむ。
生と死の境で日々を生きるハンターが、男にうつつを抜かすとは。
これが建前。
ちょっと、どういう事よ、裏切り者! 信じたアタシがバカだった!
言うまでもなく、コレが本音。
しばらくして、ナイナを見つけて走ってきたのは。
「あれ?」
「おや?」
小さな男の子や女の子。
集まってきた子供達は、ナイナの周りに座りこむ。
ナイナは笑顔で、ある話を語り始めた。
それは仲のいい三人の女ハンターの冒険物語。
どんなに強い敵にも、どんなに苦しい時にも。
いつも一緒に、がんばって戦っていく三人の話。
「・・・ねぇ、サーシャ」
「なに、リエッタ?」
「なんか、アタシ達って今、悪者?」
「い、言い出したのは私じゃないもん」
「あ、ずるい! 共犯じゃないの!」
「私はナイナ信じてたもん。リエッタがどうしてもって言うから・・・」
「あー、そういう事言うか!」
物陰で醜い争いを始める二人。
そうこうするうちに物語は終わり、また今度ねとナイナは子供達に手を振る。
今の二人に、ナイナの姿がまぶしすぎて、見ることすらかなわない。
「とりあえず、今日の全ての行動はなかったという事で」
「そうね。私達だけが黙ってていれば、誰も傷つかないもの」
だが。
ナイナが立ち上がる気配はない。
「あれ?」
「ナイナ、動かないね?」
しばらくして。
「ナイナさん、お待たせしました」
「あ、いいえ」
若い男が現れた。
「すいません。実はずいぶん前から、ここに来ていたのですが・・・」
男は楽しそうに。
「子供達と話す貴女に見とれていました。ナイナさん優しいんですね」
「あら、そんなお恥ずかしい・・・ただ子供が好きなだけです」
二人は悟った。
長年の付き合いである。
ナイナは三人の中で最もアタマがキレる。
そして依頼の前には、入念な準備を怠らない。
「ナイナ・・・子供すら利用するか」
「これは成敗しないといけないね。人として戦友として親友として」
「うむ。まったくの同感、行こうか戦友」
「ええ。かつての戦友に別れを告げる意味でも」
二人は物陰から出ると、肩を組んで。
「よーよー、ネーチャン」
「いいオトコつれてんじゃーん」
聞き覚えがありすぎる声に、顔をむけるナイナ。
「サーシャ・・・リエッタ・・・」
「ナイナさん、お知り合いですか?」
二人は男を見て。
「ほうほう、今度はこいつが犠牲者ですかい?」
「へっへっへっ、ナイナさんにかかっちゃ、どんなオトコもイチコロですねぇ」
これでもかといわんばかりに、イヤな二人である。
ヒクヒクとナイナの表情がひきつっている。
若い男はそれでも平静をとどめようと頑張っていた。
「今度はどこの貴族様で?」
「この前のボンボンは、有り金巻き上げられて悲惨でしたねぇ」
一切の打ち合わせなく、このコンビネーション。
戦場でこれほど頼りになるものはないが。
初めてそれを敵に回したナイナは切り返す術すらなかった。
「えっと・・・どうやら自分は邪魔なようなので、失礼します」
ついに耐え切れなくなった男は、ナイナを振り返る事なく走っていった。
「あ・・・ああー」
ナイナの悲痛な声が響く。
「くっくっく、いい気味ですねぇサーシャさん」
「そうですねぇ、愉快ですなぁ、リエッタさん」
ナイナがはじけた。
「ちょっと、どういうつもりよ!?」
二人は肩をすくめて、口笛を吹く。
「裏切り者には」
「正義の鉄槌を」
ナイナはそれを聞いて、肩を震わせる。
「こんのバカ! 何が裏切り者よ、よく聞け! あの人は確かに貴族!」
二人はやっぱりー、と笑う。
「ちょっと前に知り合って、先日舞踏会に誘われたのよ!」
残念だったねぇー、と笑う。
「私、断ったのよ? アンタ達に悪いと思って!!」
おや、と首を傾げる二人。
「事情聞かれて答えたら、なら、そのお友達もどうぞって・・・今日、三人分の招待状を頂く予定だったの!!」
とたん、無言になる二人。
おそるおそる、リエッタが。
「嘘偽りなく?」
「本当よ!」
「私達のために?」
「そうよ、このバカ!」
二人は顔を見合わせて。
地面に額をこすりつけて謝り始めた。
ナイナがその並んだ頭を踏みつけたのは言うまでもない。
『三人娘』 END
ノベルトップへ戻る。
トップへ戻る。