東の大陸、イーストはいくつもの国にわかれている。
 まず大国であるブレイブ。
 それを主として、半分の国がギルドの直轄である。
 シンシア・ワイズ・オネスト・モデストがそうである。
 それ以外のゴーディー・ボールド・グリードは、独自の政策をとって管理されている。
 西の大陸は全ての国がギルドにより管理されているが、この東の大陸では統一されていない為に様々な問題がおこる。
 最も厄介なのが、流れのハンターである。
 ギルドに属する国であれば、どこかの国で一度登録すれば、どの国でも依頼を受ける事ができる。
 また国境を越える際もそれが身分証明となる。
 当然、ハンターが犯罪沙汰を起こせば、各国のギルドナイト達が追う事になる。
 だがこの東の大陸では、そういった者は例外なくギルドに管理されていない国へと逃げ込むのだ。
 ギルドもそうなると簡単には手が出せない。内政干渉になってしまう。
 確かにギルドに属さない国への発言力はあるが、強制力はない。
 これを利用する犯罪が現在、深刻になっている。
 ハンターくずれの盗賊団といった類のものが拠点をギルドに属さない国にかまえ、ギルドに属する国で犯罪を働く。
 そしてギルドナイトがかけつける頃には、拠点へと逃げ帰る。
 拠点を構えられてしまった国が排除できればいいのだが、ギルドのような統率力の高い組織をもっている国はない。
 対して盗賊達は計画的に動き、拠点を知られるほど無能でもない。
 とは言え、ギルドもそのままにしておくほど無能ではない。
 秘密裏に少数の精鋭をもってして、拠点を排除していた。
 この日も、ギルドガンナー『魔眼の射手』にあてられた任務は、その手のものであった。





夢幻泡影 〜ヒカゲ〜 (前編)






 月だけが頼りの光。周りには深く生い茂る密林。
 川のせせらぎ、虫の声、風に揺られる木々の葉ずれの音。そして忍ぶ足音がそれに混じっている。
 先頭を歩くのは二十代後半の男のガンナーだった。
 『魔眼の射手』の二つ名を持つガンナーである。。
 ギルドの中にあって、会った事はなくともこの異名を知らぬ者は皆無だろう。
 その瞳に捕らえられた竜は、全て死す運命と言われている。
 過去の功績を数え上げればキリがないほどであり、ただのハンターであれば『英雄』と呼ばれる強者である。
 男の名は本名は秘密とされ、この男は仮の名で今はロイードと呼ばれている。

 「遅れるなよ、ステア」
 「はい、申し訳ありません!」

 『魔眼の射手』ロイードは、後ろからついてきているパートナーへ声をかける。
 それを受けて、歩を早める女ガンナー。
 ガンの他にも大きな荷物を背負っていた。行軍に必要な食料などだ。
 名をステア。
 まだ仮卒業もしていない訓練生の身であるが、今回、突然にも任務を負っている。

 「音を立てるな、気配を消せ。自分がここにいる事を忘れて歩け」
 「はい、申し訳ありません・・・」
 
 ステアは低頭して、ただ離されないようにする。
 
 「まぁ・・・いいさ」

 ロイードはステアを見て優しげに笑う。
 自分にもかつてはこのような時期があったのだから。
 思い出すにも苦労するほど昔の話。
 予定の半分を消化したあたりで、ロイードは腰をおろした。

 「休憩だ。食事の用意を頼む」
 「はい、すぐに!」

 ステアは荷物を下ろすと、川へと走っていく。
 水を確保し戻ると、保存食を取り出してロイードへ差し出す。
 さすがに火を起こす様な事はしない。自分達は今、竜でなく人を追っているのだから。
 立ち上った煙など、いい目印になってしまう。

 「貴様も食事をとれ。休息も大事だぞ」
 「はい」

 ロイードが口をつけるのを確認してから、ステアも自分のぶんを取り出す。
 給仕のような仕事だが、ステアに不満な表情はないし、ロイードも当然のようにしている。
 徹底した上下関係こそ、完全なチームワークを生むのは、今までのギルドの功績が物語っている事実だ。
 食事をしながら、ロイードは銃の点検をする。
 腕のたつガンナーというものは、常に銃の整備を怠らない。
 ステアは弾薬を込めたままの銃を手近に置いたまま、食事を続ける。
 万一、何かが襲ってきた場合、二人が同時に銃の点検をしていたのでは対処できない。
 ゆえに任務遂行中の整備などで弾薬を抜く場合は、交互に行うのもまた常識だ。
 やがて、ステアも銃の点検を終えて、しばしの休息。

 「ステアと言ったか?」
 「はい」
 「なぜ貴様のような新米が・・・いや訓練生が今回の極秘任務に選ばれたかわかるか?」
 「それは・・・私にはわかりかねます」

 ステアには本当にわからない。
 確かに自分は優等生に区分されているが、実戦経験はまだまだ足らないはずだ。

 「俺が貴様を選んだからだよ」
 「え?」
 「将来を有望視される卵を鍛える意味でな。貴様の実力はすでに訓練生の範疇ではない」
 「そ、そうだったのですか、その、光栄です」
 「経歴も見た。感心したよ。貴様の父はギルドの上位に属する地位にあるのに、あえて一人でここまできた」
 「父と私は関係ありません。私は私の意志でもって、一人のギルドナイトとして民の盾になりたかったのです」
 「そういう所が感心したのさ」

 父の力があれば、あらゆる面で優遇されるであろうに、この少女はあえて独りの力で駆け上ってきた。
 ロイードはステアをまぶしそうに見て微笑む。
 そして真剣な表情になると、ステアに問う。

 「所で・・・貴様は今回の任務について、どれほど知っている?」
 「はい。ギルドの管理地である街で誘拐を働き、他国で人身売買をしている組織の殲滅と聞いております」
 「そうだ、そいつらは国境沿いのこの辺りを往復するように、誘拐を繰り返している・・・許せるか?」
 「いいえ、決して!」

 ステアの激しい怒りに満ちた顔を、ロイードは嘲笑する。

 「若いな。気持ちいいほどに、いい答えだ」
 「ロイード様はそうではない・・・と?」

 ステアは無意識にそうたずねて後悔する。
 そんなはずはないのだ、ギルドで数々の功績を残した、いわばギルドの『英雄』である。
 
 「申し訳ありません! 失言でした!」
 「そう大きな声を出すな。どこにやつらが潜んでいるかわからんぞ」
 「あ・・・申し訳ありません」

 ロイードは一つ、ため息をついて。

 「正直、貴様ほどの情熱は俺にはない・・・いや、かつてはあったかもしれんが忘れた」

 ロイードはステアの曇ったような顔を見て、また嘲笑する。
 
 「すまんな。これこそ失言だ・・・酒と女に溺れてしまうのも無理ないか」
 「ロイード様・・・」
 「俺を立派な人格者だなんて思うなよ? いつ貴様を慰み者になるかもわからん」

 ステアは思う。
 ロイードは長年、誰かの盾となり剣となり銃となり。長く長く戦い、疲れ、すりへってしまったと。
 自分にできる事などたかが知れているが、それでも力になれるならと。

 「私でよろしいのならば」
 「ほう?」

 なめるような視線にステアは身じろぎしない。

 「ふぅ・・・ギルドの学園教育もたいしたもんだ。任務が終わったらお願いするかもな」
 「はい、喜んで」
 「冗談だ。背伸びするには、貴様は若すぎる」

 ポンポンと頭をなでて苦笑するロイードに、ステアは初めて少女らしい恥じらいを見せた。
 ロイードが立ち上がる。

 「では出発だ。朝日が昇る直前に、やつらの拠点に攻め入る」
 「はい」

 二人はまだ暗い密林を進み始めた。 





 やがて、二人が長い歩みを止めた。
 小高い丘の上から見下ろすすぐ先には、いくつかのテントが張られた大きなキャンプが設置されている集落がある。
 その数の規模からして三十人ほどだろうか。見張りも数人が確認できた。

 「報告よりも多いな。まあ、わかっていたが」

 ギルドの指令書には十人程度の規模とあった。ゆえに二人での任務だったのだが。

 「わかっていた?」
 「いや、こちらの話だ。」
 「・・・では、ロイード様、どうされますか?」

 双眼鏡から目をはなさず、ステアはたずねかける。

 「ふん。ギルドの調査力もこの程度なら当分は安心できる」
 「は?」

 ステアの疑問を聞いていなかったように。

 「俺と貴様で、この集団を制圧できると思うか?」
 「いえ・・・私などは。ですが、ロイード様ならば」
 「『魔眼の射手』の名に盲目的だな。現実は厳しいものだ」
 「そう、ですか・・・」

 ステアの中では『魔眼の射手』が退く事など考えられなかった。
 しかし、現実の『魔眼の射手』は首を横にふっている。
 たしかに三十人のハンターくずれを相手にする事は難しい事かもしれない。
 ふと気づく。
 
 「私がいるからですか?」
 「ん?」
 「私が足手まといになるから、そうなのでしょう?」

 もし自分がいなければ、『魔眼の射手』はとまどう事なく飛び込んだに違いない。

 「・・・貴様は本当にいい娘だな。純真で、そして無知で」
 「え?」

 ロイードは立ち上がり、

 「ロイード様?」

 こんな所で立ち上がっては、いかに夜明け前といえど発見されるおそれがある。
 しかしロイードは言葉を続ける。嘲笑とともに。

 「もう一度言おう。現実は厳しい・・・妄想や希望に溺れている貴様が思うより遥かに、な」

 ロイードは銃を構え、明け始めた赤い空に向けて引き金をひいた。

 「なっ!?」

 ステアが凍りつく。
 その銃声に反応して、眼下では一斉に盗賊達が動き始める。

 「ロイード様!?」

 わざわざ敵に自分の位置を知らせるなど、正気ではない。
 だがステアの驚愕はまだ続いた。

 「これが現実だ」

 ロイードの銃口はステアに向けられていた。

 「ど、どういう事、ですか」

 それだけをなんとか絞り出す。
 ロイードは笑う。目の前の若いギルドナイトを哀れむように、そして悲しむように。

 「この盗賊団の正確な人数は四十七人。人身売買と指令書にはあるが、全ての人間が殺されている。遺体の一部を証拠とし
てギルドに送りつけられているのが事実だ」
 「・・・」
 「盗賊団を率いているのは、かつて英雄を目指した男だった」

 ステアが困惑しながらも、状況を理解しようとする。
 ロイードの作戦なのか、それとも他の何か・・・考えられないはずの何かなのか、と。

 「その男はやがて実力を買われギルドナイトとなった。さらに数年後には部隊長となった」

 ロイードの話は続く。
 盗賊達はすでにこちらへと走ってきている。その数は三十以上。

 「そして、幻想の身代わりに祭り上げられた。その中でギルドの裏側を知った」
 「・・・」 
 「全てが馬鹿らしく思えた。男は・・・復讐を誓った。何に誓ったかはわからないが」

 二人はすでに盗賊達に囲まれていた。
 しかし盗賊達は遠巻きに見ているだけで、手を出してくる気配はない。
 そして身なりこそ薄汚れているが、彼らは実に組織だって行動していた。

 「ステア、知っていたか? 誘拐されていたのは全てがギルドに縁のある者だと」
 「え?」
 「華々しいギルドの影で暗躍する部隊がある。『魔眼の射手』もまたその一つ」
 「・・・」
 「主な任務は暗殺だ」
 「・・・あ」

 ロイードはステアに近寄り、ガンを取り上げた。
 
 「『魔眼の射手』をふくむ暗部はこれまで罪のない人々を全てギルドの都合で殺してきた。時には子供も」
 「・・・ギルドに、そういう噂があるのは・・・知っていました」
 「ほう」
 「でもそんなのはデタラメだと・・・父にも問い詰めました!」
 「貴様の父は、司令部の一人だ。娘といえども漏らすはずがない」

 ステアが目を見開く。

 「そんな、ウソです」
 「ギルドの表は嘘だらけさ。正義の名のもとに」

 ロイードが後ろの盗賊の一人に声をかける。
 声をかけられた男がすぐに走り寄って来る。

 「はい、団長」

 盗賊の男はロイードをそう呼んだ。
 ステアは目の前の光景を一切理解できなかった。
 盗賊の一人がロイードを、『魔眼の射手』を団長、そう呼んだのだ。

 「紹介しよう、副長。彼女の名はステア。司令部の一人を父に持つ・・・将来有望な訓練生だ。次のギルドへの見せしめに使う」
 「・・・ロイード様・・・?」
 「言っただろう、貴様を同行するようにいったのは俺だと。ギルドはまだ俺がこの盗賊団・・・いや」

 ロイードは盗賊達を見まわして。

 「反乱軍の団長とは疑ってもいない。と言ってもまだ規模は小さいがな。一部を除いてはまだ訓練中でもある」
 「そんな、そんな・・・ウソですよね・・・」

 ステアの世界が崩れていく。
 気づかず涙を流していた。

 「ステア。君に罪はない。けれどギルドもまた罪なき人に同じ事をしてきた。誰かが止めなければならない」
 「・・・」
 「俺のやっている事が全て正しいわけではない。だから、俺を恨め」
 「一つ、お聞かせください、ロイード様!」
 
 自分の命よりも大切なものにすがりついて、ステアは叫ぶ。

 「『魔眼の射手』は今も民のために戦っているのですよね!?」
 「そうだ・・・いや、違うか」
 「でも、さっき・・・」
 「俺は『魔眼の射手』ではないんだよ。さきほどもいったろう、身代わりに祭り上げられたと」
 「それはどういう事ですか?」
 「『魔眼の射手』は実在しない幻想なんだよ。考えても見ろ。『魔眼の射手』の功績を。とても一人で達成できる任務ではない」

 ステアが知るだけでも、単独で竜の巣を撃破した事や、数頭の角竜を同時に討伐したという物もある。
 いずれも現実味のない記録だが、言われてみるまで疑った事もなかった。
 それは確固として存在する事実。成し得たのが目に見える存在であったからだ。
 ロイードはステアの考えを読み、

 「だが表向きの存在は必要だ。君のように信じさせる為に。またギルドの裏を知る者に対して形ある脅威としても。だから
、ある程度の力がある者が人形として選ばれた」
 「・・・それが・・・」
 「俺だ」

 自嘲するロイードは、言葉を続ける。

 「だが、それは都合が良かった。表向きの俺は『魔眼の射手』だ。その地位を利用して、ギルドの諜報部が得た情報を流用したり、任務の内容を自分の都合のいいように変更する事ができた。今、君がここにいるように」
 「・・・そう、ですか」
 「そうだ。これが全てだ。死んでくれ」
 「・・・」

 ステアは泣いた。
 もう何が正しいのか、正しくなのか。長年信じてきたギルドの裏側を聞かされて。
 ロイードは民を守る為に戦い、ギルドもまた民を守る為に戦い。

 「ロイード様、お願いです」
 「なんだ?」
 「力なき民をどうか」
 「・・・命賭けて誓う。すまない」

 そして銃声が響き。
 副長と呼ばれていた男の頭部がはじけた。

 「え?」

 おそるおそる目を開けたステアが見た光景は、すでに地獄だった。
 榴弾降りしきる爆発の嵐の中、次々に吹き飛び倒れていく盗賊団の男たち。

 「拡散弾? 遠距離からの射撃か?」

 ロイードは身をかがめつつ、遮蔽物のかげに飛び込む。
 次の瞬間、眼下のキャンプに爆発が連続して起こった。
 火炎弾で、火薬庫を狙い撃ちされたのだ。

 「各員、散開! 侵入者を発見しだい殺せ!」

 すぐさま支持に従い、男達が走り出す。
 しかし右往左往する盗賊達に対して、精密な射撃はステアをのぞく人間の群れを狩りつくしていく。
 その数が半分ほどまでも減らされたあたりで、

 「いたぞ、あそこだ!」

 一人が叫ぶ。叫んだ瞬間、体をくの字に折り曲げて血を吐いた。
 侵入者は一人だった。
 茂みの中から姿を現したのは、見た事もない、赤黒い装備に身を硬めた小柄なガンナーだった。
 そしてその身長ほどもある同色のヘヴィガンを軽々と扱い、殺戮を撒き散らしていく。
 盗賊団達が、一斉に射撃を開始する。
 侵入者は燃え盛るキャンプ地へと飛び込み、遮蔽を利用して応射する。
 次々と倒れていく男達。辺りが血と火薬の匂いで満たされていく。
 侵入者は装填のためか、燃え盛る建物の中へ身を隠した。

 「・・・単独か、なめられたものだな」

 ロイードが笑う。
 
 「確かに相当な実力のようだ。普通の盗賊団ならば壊滅も可能だろうが、認識が甘い」

 ロイードがすでに散弾の装填されたガンを背にして、走り出す。

 「貴様らは包囲に回れ、決して逃がすな! 俺が仕留める!」

 新たな指示に従う男達。
 ステアが見る限り、さきほどのうろたえていた行動とは明らかに違っていた。
 今、残っている者は歴戦といったたたずまいがあるのだ。
 さきの強襲で倒れた者達は力ない者。ロイードの言葉を思い起こす。
 ロイードは、さきほど一部を除いては訓練中といった。つまり教育をする側の者もいるという事だ。
 そして今、侵入者を包囲するために動いている者たちはハンター崩れなどではない。
 この包囲の動きや、順序は・・・

 「ギルドの・・・」

 学園や実習で叩き込まれた、無駄のない動きだ。
 つまりここは、この盗賊団は。

 「ロイード様と同じ・・・ギルドナイト・・・」

 ギルドを裏切ったのはロイードだけではなかった。
 この盗賊団の中核はギルドナイト。
 つまり、ロイードという隊長に率いられた部隊なのだ。
 侵入者の隠れたキャンプを大きく囲んでいく、ギルドナイト達。
 全ての銃口がその中心に向けられている。
 一切の逃げ場はない。と、その時。
 さらに大きな爆発と閃光が巻き起こった。

 「くっ・・・」

 侵入者を追いかけていたロイードが、近距離で爆風のあおりを受ける。

 「爆薬まで持ち込んでいたか。大したものだ」

 地形と遮蔽物の位置が変わり、ロイードはすぐに身を隠す。
 あの爆発にまぎれて、飛び出すと読んだ。

 「・・・」  

 だが、動きのある気配はない。
 ゆっくりと移動し、索敵する。爆音で耳はたよりにならない。
 目とカンだけを頼りに、赤黒い姿の侵入者を探る。
 やがて、そのいびつな形の防具の背を発見する。
 木にもたれかかるようにして、身動きせずにロイードを探している。

 「・・・あの防具、相当な堅牢さだ・・・一撃で仕留めるには」

 ロイードは慎重に距離を詰めて行った。 



 

 一方ステアは、なんとかこの場から逃げ出そうと立ち上がった。
 この事態を報告するのが正しい事かはわからない。
 けれど、自分には他にできる事がないのも事実だった。
 ギルドは従う事を教えてくれたが、考えることは教えてくれなかったのだから。

 「今なら・・・」

 密林へと走り出す。
 一人の男が気づき、ステアを追う。
 ステアが密林の中に走りこんだ頃には、男はすぐそこまで迫っていた。
 女と男、その脚力の差だった。
 明け始めたとはいえ、視界はひどく悪い。ステアが足をもつれさせた。
 体勢をたてなおす事すらできず、転倒してしまう。
 男が銃を構える。

 「く・・・」

 死を覚悟した瞬間、男が血を吐いて倒れた。
 腹から飛び出た黒い刃は、その背から貫かれたものだった。
 男が倒れ、そこにあった姿は血塗れた剣を持った裸の少女だった。


続く





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