夢想と交錯と激突と (前編)






 「リロード!」

 リンが叫ぶ。
 背中を守っていた男が、閃光弾を投げつけた。
 周囲のランポスの群れが、目を焼かれ、動きを止める。
 リンは素早く散弾を装填し、撃ち出す。
 と、男が、中空を見上げた。

 「来たぞ! レウスだ!」
 「なかなか・・・大きいみたいね」
 「ああ。だが、俺とリンなら、何でもできる!」
 「・・・」
 
 リンは背中の感触に身をゆだねる。
 広く大きく、たくましい背中。
  
 「ねぇ」
 「なんだ?」
 「アタシ達、ずっと対等だったよね」
 「ああ、良き相棒だ」
 「アタシ、もうイヤ」
 「・・・なに?」

 リンは、決心していた。
 どう答えられようとも。
 もう、この関係に耐えられないのだから。
 男は長い沈黙のあと、吐き出すようにして。
 
 「・・・わかった。リン。お前がそういうなら、これで最後にしよう」
 「背中じゃダメなのよ・・・」
 「ん?」

 振り返った男の胸に、リンが飛び込んだ。

 「背中じゃない。アザァの胸の中がいいの!」
 「リ、リン?」
 「対等じゃイヤ。アザァのものになりたい!」
 「・・・ふっ・・・くくくっ・・・」

 突然、笑い出すアザァ。

 「・・・な、なによ・・・そんなに笑う、事・・・」

 身を裂くような決心で告げた言葉を笑われたリンは、怒りよりも悲しみに涙を瞳ためた。

 「あのな、リン」
 「・・・」
 「お前が俺のものになりたいなんて、勘違いもいい所だ」
 「・・・ど、どういう事よ?」
 「リンがなんと言おうと、俺のものにするつもりだったんだし」

 意地の悪い笑顔を浮かべて、アザァはリンの唇を奪った。

 「・・・ア、アザァ・・・」
 「さぁて、レウスが降りてくるぞ!」
 「アザァ!」

 リンは自分の声で目覚めた。
 隣では、妙に寝相のいい金髪の戦友と。
 すでにベッドから転がり落ちている小さな戦友がいる。

 「・・・夢か」

 そっと、自分の唇に触れるリン。

 「・・・続き、見よっと・・・」

 シーツにくるまり、リンはまた夢の中へと戻っていった。






 すでに何頭の飛竜を倒しただろうか。
 体力は限界に近く、意識も朦朧となり、足にも力が入らない。
 今にも崩れ落ちそうになる体を必死に支え、前を見る。

 「・・・」

 目前には新たなリオレイア。
 レイアは今にも炎を吐き出さんと、力をためている。

 「・・・くっ」
 
 回避しようとヒザに力を入れた瞬間、そこから地へと崩れ落ちた。
 立ち上がろうとするも、アリエステルの体はもう動かない。

 「・・・最期に一目・・・あの人に会いたかった・・・」

 アリエステルは笑って目を閉じる。
 死の恐怖から逃れるためではない。
 まだ、まぶたに焼きついている、愛しい男の姿を見る為に。
 
 「・・・」

 爆音が響いた。
 しかし。
 死はいまだやってこない。

 「・・・あ」

 アリエステルが目を開けると、そこには火の粉をその身に飾った男の背中があった。
 蒼い鎧をまとった男の手には、イフリートマロウが握られている。
 振り返った男は笑顔で、

 「すまない。俺とした事が、女性を待たせるとは」
 「・・・ああ・・・貴方は・・・貴方は!」
 「その上、花束も忘れてしまった。許してくれるかい? こんな愚かな俺を」
 「ああ・・・これは夢? 私は今、夢を見ているのですか?」 

 レイアの咆哮があがる。
 アザァは、アリエステルの金髪を優しく撫で。
 
 「アリス。君の美しい髪が乱れるべきはここじゃないだろう?」

 アザァはレイアに走り出す。
 そして背中越しに、アザァは一言残していく。

 「君の髪が乱れるのは、俺のベッドだけさ」
 「アザァ様・・・」

 アリエステルは、自分の呟きによって目覚めた。
 
 「・・・」

 右を見れば、赤い髪の戦友が寝相も悪く、シーツにくるまっている。

 「・・・」

 左を見れば小さな戦友が、もはやベッドからも転がり落ちている。

 「・・・夢、でしたのね」

 アリエステルは、ふと考え。

 「さて、続きを」
 
 シーツをかぶり、モゾモゾとベッドに潜り込んだ。
 



 

 「今日もがんばったね!」 
 「ああ。いい素材もとれたしな」

 隣で笑う青年は、そんなミラに極上の笑顔でうなずいた。
 ミラはいつものごとく、その笑顔から視線をそらしてしまう。
 しかし、今日は違った。

 「ね、ねぇ、アザァ兄ちゃん」
 「ん?」

 笑顔は一層、光り輝いてミラを優しく包む。

 「あのさ、ボクってまだ子供なのかな?」

 アザァは、少しばかり考えて、ミラの言いたい事を先読みした。

 「そんな事ないさ。大きな瞳と素敵な笑顔。いつも元気で明るい魅力的なレディだよ」
 「・・・」

 顔が火照り、視線が揺れ、心臓の鼓動が急激に高鳴る。
 予想外の答えに、口をパクパクさせつつも、言葉がでてこない。
 かわりに、涙が出てきた。

 「おやおや。俺はレディを泣かす悪い男になっちまったな」
 「あ・・・あ・・・ち、違うよ、泣いてないよ・・・」

 涙をぬぐったアザァの指先が、そのまま唇へ。

 「ミラは、まだまだ、いい女になれるよ。将来の恋人が羨ましい」

 その笑顔が、ミラには悲しい。
 この青年は、自分をとても可愛がってくれる。
 しかし、相棒として、妹のようなものとしてとしか見ていない。

 「・・・アザァ兄ちゃん。ボク、ね」
 「ん?」

 強くアザァを見つめる。
 純真に、ただ、真っ直ぐに。

 「アザァ兄ちゃんのお嫁さんになり・・・たい・・・」

 まだ少女の残るレディのミラの言葉は最初、強く。
 そして、最後は聞き取れないほどに弱く。 
 けれど、瞳だけは愛しい青年の姿を映したまま。

 「そうか。ありがとう」

 けれど、青年は少女の言葉をただ受け止めただけだった。
 ミラはさきほどとは違う涙を浮かべる。
 その涙を見られたくないと思ったのは、女になりかけの少女の意地。
 すぐさま青年に背を向けた。途端に涙は止まらず、いくつもの雫になって落ちる。
 
 「ミラ」

 青年の声は何もかわらない。
 いつものように、優しく、包み込むように。
 ふわりと、その強い両腕が、ミラを抱きしめた。

 「ア、アザァ兄ちゃん?」

 うろたえつつも、その心地よさに逃げることもできない。
 嗚咽に震える小さな体を、アザァは強く抱きしめてた。
 背中ごしに、アザァの鼓動が伝わってくる。
 それはとても、とても。
 ミラよりも、強く、早く、高鳴っていた。

 「・・・アザァ兄ちゃん」
 「ずっと一緒にいてくれるか?」
 「・・・うん・・・ずっと一緒にいるよ」
 「そうか。ありがとう・・・」
 「アザァ兄ちゃん・・・」
 「もう、兄ちゃんはいい。もう、お兄さんじゃいられない」

 ミラは自分を抱きしめるアザァの手に、自分の手を強く抱きしめて。
 呼びなれた名を初めて呼んだ。
 
 「アザァ」

 ミラは抱きしめていた枕を投げ出し、周りを見る。
 寝相のいい相棒と、寝相の悪い相棒が、気持ち悪い笑顔で眠っている。

 「・・・ぶー」

 数度、枕を殴りつけ。

 「ふっ・・・」

 と、大人びた笑みを浮かべて二人の戦友に勝ち誇る。

 「アザァ兄ちゃんも若い方がいいに決まってるもんねー」

 赤毛もいい年だし、金髪ならば勝負にもならない。

 「待っててね、アザァ兄ちゃん、すぐ戻るよ!」

 ふたたび、ベッドに戻るとミラはまた眠りに落ちていった。





 「はい、あなた・・・」
 「ああ、ありがとう」

 食事を終えたテーブルに、暖かいお茶が置かれた。
 メイラはそれをゆっくりと飲むアザァの横顔を見て微笑む。

 「なんだ?」
 「ううん、なにも」
 「そうか」
 「うん」
 「あまり動くなよ。お前は大事な時期なんだからな」
 「ええ。でも、軽い運動は必要なのよ」

 静かな時間が二人の間に流れる。
 言葉もなく。何をするでもなく。ただ、二人の時間。
 かつては英雄と呼ばれた二人のハンター。
 それも数年も昔の話。
 今、ここにいる二人は、引退した名も無きハンターでしかない。
 名声も栄誉も地位も。なにもかも、前の街に置いてきた。
 この街で、二人の素性を知る者は一人もいない。
 メイラは幸せだった。
 愛しい人がすぐ側にいる。
 古傷だらけの左腕に、そっと触れる。

 「・・・ゴメンね。アタシのせいで」
 「気にするな。あの時の俺が弱かっただけだ」

 アザァは優しく微笑んで。
 メイラの大きくなったお腹に触れる。

 「何も心配いらない。何も。だから、元気な子を産んでくれ」
 「ふふふ・・・」
 「どっちに似るのか楽しみだ」

 メイラは、ふと考えて。

 「あなたに似たら大変ね」
 「ん? ひどいな」
 「自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ?」
 「べ、別に・・・やましいことなんて・・・ない、ぞ?」
 「アタシは、あなたが泣かせた女性の名前を全員言えるわよ?」
 「ごめんなさい」

 その時だった。

 「エンさん、レイラさん!」

 隣の家の者が、二人がこの街で名乗っている偽名を呼びながら、乱暴にドアをあけて入ってきた。

 「あら、どうしたんですか?」
 「どうしたどころじゃない、早く避難を!」

 その慌てようにアザァも、

 「何があったんですか? 見てのとおり妻は今、動けないんですよ」
 「聞いてないんですか? 巨大な龍がこの街にくるんですよ! すでに砦も破られたそうです!」

 アザァとメイラは目を合わせる。

 「私は他に残ってない人がいないか、見回ってきます。早く避難を!」

 出て行く隣人の背を見送ったアザァは、家の奥へと入っていく。
 元ハンターとして、その行動の先はすぐにわかった。

 「アザァ・・・? ねぇ、やめてよ?」

 身重の体を懸命に支えて、アザァの後を追うメイラ。
 壁に手をつき、息を荒げて。一歩一歩、慎重に。
 大きな倉庫の置かれた奥の部屋では、アザァが右手だけで装備を整えていた。

 「・・・アザァ、逃げようよ。アタシは大丈夫。動けるから・・・」
 「・・・」

 それが自分でも強がりである事はわかっている。
 今、この部屋に来るだけでもずいぶんと時間がかかったのだ。
 多数の人間が避難する流れの中では、危険ともいえる。 

 「砦が破られたという事は、そう時間がない」

 もはや、龍の進行をさまたげるものはない。

 「・・・アザァ、無理よ・・・何が相手かわかってるでしょう?」
 「老山龍か・・・岩山龍かもな」
 「だったら!」

 メイラへと向き直ったアザァは、全身を銀色の甲冑に包んでいた。
 右手には黒い片手剣。左手には何も持っていない。
 今のアザァの左手には、ほとんど握力も筋力もない。

 「・・・アザァ・・・ごめん、ごめんね・・・」

 激しい戦いだった。
 死を覚悟したあの戦い。
 傷つき、動けなくなった自分。
 何度も言った。涙して懇願した。
 自分はいいから、自分にはかまわず、大声で何度もその背中に。
 けれど、アザァは動かなかった。
 その背中は大きく、力強く、そしてとても、愛しかった。
 そして二人は生き延びた。
 激しい牙と爪と炎からメイラを守りきった。己の左腕と引き換えに。  

 「大丈夫。砥ぐぐらいなら問題ない」
 「ダメ! 行ってはダメ!」
 「・・・ごめんな。俺は本当に女性を・・・君を泣かせてばかりだ」
 「行かせないから。絶対に!」

 懸命にアザァの前に立ちふさがるメイラ。

 「必ず帰ってくる。君と・・この子の為に」

 アザァがメイラの髪とお腹を優しく撫でた。

 「いや、いや! やめてよ、お願いだから!」
 「ごめんな」
 「・・・うっ・・・うう・・・」

 止めても無駄なのはわかっていた。
 泣き崩れたメイラの横をアザァは通り過ぎる。
 ふと足を止める。

 「メイラ」
 「・・・」
 「元気でな」

 そしてアザァは走り出した。

 「アザァ!」

 自分の声で跳ね起きたメイラは、涙に濡れながら手を宙に差し出していた。
 隣ではティティが、シーツを抱きしめて眠っている。

 「あ・・・夢、ね」

 メイラは軽い自己嫌悪に陥る。

 「アタシ、悲劇のヒロイン願望でもあるのかしらね。けど、最後のアザァ・・・素敵だったわぁ」

 愛する女と子の為に、無謀な戦いへと果敢に駆け出す戦士の背中。
 もし現実に、夢と同じ状況に置かれたら、同じ行動をとっただろうか?

 「・・・アザァだもんね。行くわね、きっと」

 問題は、相手役が自分でなくても変わりそうにない事であるが。

 「ま、自分から口説いてまわってるワケじゃないし。仕方ないか」

 眠っているティティの頭を軽く指でつつく。
 普段は口喧嘩ばかりだが、こうして同じ部屋で眠る仲。
 本人は弟子になったつもりはない、と言い張っているが。
 必死で自分の技術を習得し、継承していくティティを見ると、やはり可愛い。
 と、いうのが英雄と呼ばれた熟練ハンターの師匠としての視点。

 「このこの」

 ペシペシと、その額を叩くメイラ。
 幼馴染で、アザァおにぃと呼ぶ間柄の上、認めたくないがこれからが楽しみな可愛い若さ。

 「憎まれ口ばかりだけど、寝てる時は可愛いのよね」

 だが。
 唐突に、小さい頃は、一緒に水浴びもしていたという話を思い出す。

 「ええい、このこのこのこの!」

 と、いうのが年上の恋敵としての視点だった。
 ペシペシという音が、ゲシゲシという音に変わったあたりで。

 「う、うーん・・・アザァおにぃ! あ、この、何すんのよ!」

 自分を叩いているメイラに気づき、ティティがその銀色の髪を引っ張る。

 「あいたたたた!」

 メイラも負けじと、ティティの頬をひっぱる。

 「ひはいひはいひはい!」

 互いが痛みに手を離した瞬間、怒声が響く。

 「いたいわねなにすんのよせったかくいいゆめみてたのにだいなしじゃないのよどうしてくれんのよ!」
 「・・・アンタ、さっき寝言でアザァの名前、呼んでたわね」
 「ふふーん。だからなによ? ああ、アザァおにぃ、カッコよかったなぁ」

 体をクネクネとよじらせて、頬を赤く染めるティティ。

 「また、いやらしい夢でも見てたんでしょーが」
 「素敵な夢、と言ってよね。身ごもったあたしとその子を守る為、単身、戦いに赴くアザァおにぃ!」
 「・・・」
 「行かないでと止めるあたしに、元気でな、と言い残して・・・いたたたたたたたたたた!」
 「この、この、この、この!」
 「離せ、この年増! オバサン!」
 「師匠に向かってよくも! この口か、この口が悪いのか!」
 「られがひひょうよれひにあっはほほえなんへないわよこほのほのほのほのほのほのほの!」
 「あ、あっあっあっ! よくもやってくれたわね、こんのクソガキが!」

 そして二人は、取っ組み合いのケンカを始めた。 



    



 「この人がお父さん?」
 「そうだよ」

 アーニに笑って答えるレンシィ。

 「レンシィ、この人と結婚するの?」
 「そう。だから、私ね、あなた達のお母さんになるの。これから、そう呼んでくれると嬉しいな」
 「うん! お、母さん」

 サーシャが、恥ずかしそうにレンシィを、そう呼んだ。
 青年は、レンシィの背中に隠れている二人の小さな手を優しく撫でて。

 「二人とも、よろしくな」

 レンシィ以外から初めての与えられた暖かさに、二人はモジモジと小さな体をさらに小さくする。

 「照れちゃって」
 「子供は可愛いな」
 「なによ、私は可愛くないの?」
 「君も可愛いよ」

 真顔で言われて、レンシィもまた小さくなる。
 
 「・・・家族、か」

 アザァが、呟く。
 それを聞いてレンシィが、慌てるように。
 
 「や、やっぱり・・・私じゃ・・・」
 「バカ。違う・・・ただ、俺が家庭を持てるなんて、まだ信じられなくてな」 

 過去を思い出しているのか。
 過去を振り切っているのか。
 女にしかわからない事があるように、男にも男にしかわからない事があるのだろう。
 レンシィは、アザァと同じ空を見て肩によりかかる。

 「幸せにしてね?」
 「今は幸せじゃないのか?」
 「幸せ。だから、もっと。もっともっともっと・・・」
 「ああ」

 アザァは右手でレンシィを抱き寄せた。
 そして左手で二人の子供を抱き寄せる。

 「アザァ・・・」

 ポツリと呟いて、レンシィが目をさます。
 抱きつくようにして眠っている、アーニとサーシャ。
 街から街への旅は、小さな二人には辛いのであろう。今はグッスリと眠っている。
 あの時、結局、アザァはレウスと三人の女に追われ、逃げ去った。
 アザァという名を知ったのも、その三人から聞いた。
 あんな別れ方だったが、アザァならば、きっと自分達を受け入れてくれるだろう。
 返事はしてもらったも同然だったし、この幼子二人の事も話してある。
 ただ、問題は。

 「あの三人の女ハンターよね」

 凄腕ハンターだろう事は、彼女達の目を見ればわかった。
 その後、彼女達を連れていた『蜘蛛の碧眼』ことサバーラに事情を聞いてみたが。

 「シンシアの近道のついでにって同行してもらったのよ。誰かを追ってるんだってさ」

 と、生傷だらけのサバーラは答えた。
 つまり、アザァを追って様々な国を転々としていたのだろう。
 たまたまシンシアに向かう途中で、バッタリというわけだ。

 「ただのパーティを組んだ仲にしては・・・」

 息のあった三人のはずだったが、アザァを見つけた瞬間、互いが互いを牽制しだした。
 散弾が辺りに飛び交い、ハンマーが地をゆるがし、爆発が轟く。
 追いかけていたレウスなどは、とうに逃げ出している。
 レンシィが彼女達に追いついた時には、アザァの姿はなく、にらみあう三人だけが残されていた。 
 そのレンシィに三人が気づくと、赤毛の女が問いかけてくる。「あなた、アザァとどういう関係?」と。
 ここで『黒き灼熱』の名を知った。
 金髪の女が、「あらあら、またですわね」と、続けた。
 常に優雅に笑っているんだが、あれは笑顔と呼ばない気がする。
 最後に黒髪の少女が、「今度は若い子だ。二人とも残念だったね。ボクは気にしないけど」と言い放ち。
 また、激闘が始まった

 「・・・アザァって実は・・・」

 が、あれほどの男性を女性がほおっておくはずもない。
 レンシィは、昔の話よ、と吹っ切る。

 「休んでおかないと。明日も動くんだし・・・わっ!」

 突然、隣の部屋からすさまじい、怒鳴り声が聞こえてきた。
 クソガキだの、ババァだのと、深夜の静寂に響き渡る。
 宿全体に筒抜けなほどの大声だ。

 「んー・・・」

 小さな寝顔に、かげりが浮かぶ。
 ただでさえ、疲れているのだ。せめて夜くらいはゆっくり休ませてあげたい。
 レンシィは、隣の部屋の客の様子を見るべく、部屋を出た。



続く・・・




ノベルトップへ戻る。



トップへ戻る。