その国には四つの城がある。
 シュレイドと呼ばれる、龍を討つ為の檻。
 高く堅固な城壁は、捕らえた獲物を逃さぬ為に。
 そこに待ちうけ、挑むは英雄と呼ばれる戦士。
 かの龍は伝説。かの龍の名は黒龍。
 禍々しい姿に宿した黒き力。
 全てを切り裂く爪、黒き風を巻き起こす翼、業火を吐き出す牙。
 それに比べて、人のなんと小さく、弱く、脆いものか。
 けれど、英雄もまた武器という名の爪を持つ。
 命よりも重き戦う理由は翼となり。何よりも大切な想を込めた叫びは牙となり。
 かくして災厄の前に雄雄しく立ちふさがり、それをなぎ払う。
 何時でも、何度でも、黒龍の前に立つ者。

 黒龍とともに『龍喰らい』は現れる。

 その言葉で締められる物語。
 全ての者達が知る、おとぎ話。










 彼の名はゴルドー。
 火竜や角竜を討伐する若く躍動感にあふれたハンターの陰。
 ケルビやランポスを狩る、うだつのあがらない中年ハンターだった。

 「ただいま」
 「あなた・・・おケガありませんか?」

 小さな家の小さな食卓。
 そのテーブルに座っていた妻、リリアが立ち上がりゴルドーを気遣う。

 「はは、大丈夫さ。無理はしていない」
 「そうですか。良かった」
 「はい、これ。いつも少なくてすまないけど」

 ゴルドーが今日の稼ぎの入った小さな袋をリリアに手渡す。
 それを大事に受け取り、リリアはご苦労様でしたと微笑んだ。

 「・・・あの、あなた」
 「なんだい?」

 いつものように、ニッコリと返すゴルドー。

 「娘がまた・・・その」
 「・・・ああ」

 今は隣の部屋で眠る娘。
 その目の下は赤く腫れている。

 「すまないな、私のせいで。ふがいない」
 「そんな・・・」

 ハンターは、憧憬と畏怖の対象。
 ヒトを遥かに凌ぐ龍を討ち倒す存在。
 しかし、死の影は常にまとわりつく。
 幼い心に、その不安はどれほどのものだろうか。

 「・・・苦労をかけるね」
 「いいえ。あなたはハンターで。アタシは、そんなあなたを好きになったのですから」
 「ははは。昔の話のような言い方だな」

 冗談めいた言い方に、リリアは笑う。

 「ええ、昔の話です」
 「ひどいな。今は好いてくれてないのかい?」
 「今は、あなたを愛してます」
 「・・・照れるなぁ」

 真顔で言われてゴルドーは、頭をかく。

 「でも、ファランが可愛そうで」

 リリアが娘の眠る部屋に目をやる。

 「そうだな。レウスでも狩れば安心するかもしれないな」
 「ダメですよ、あなた」
 「冗談だよ。そんな勇気は私にはないさ」

 優しくリリアの頬に口付けして、ゴルドーは笑った。
 結局、その日。
 リリアは、昨日ゴルドーに届いた手紙を渡す事ができなかった。





おとぎ話の英雄 序章






 次の日もゴルドーは酒場へと足を運んでいた。
 酒の飲めないゴルドーは軽い食事をとった後、依頼書を眺めている。
 いつものようにランポスの依頼書に手をかけて、ふと思う。

 「たまにはファランに服でも買ってやりたいな」

 小さく呟いて、クックの依頼書を手に取った。
 そんなゴルドーの一挙一動を見ていた若いハンター達が、声高らかに。

 「ゴルドーさんよ、クックなんて大丈夫かよ!?」
 「年なんだから、ムリすんなって!」
 「ここで一緒に飲んでよーぜ、おごるからさ!」

 酔っているせいもあるが、いつもの事だった。
 周りの者も、それを楽しげに眺めている。
 かといってバカにしているかというと、そうでもない。
 ハンターとしてゴルドーは決して若くない。
 ゆえに、なおも今、現役であるゴルドーに対する尊敬のようなものがある。
 若者達にとって、ゴルドーは父親のような存在であり、親友でもあった。
 様々な助言や、経験談は、騙りではない真実味があった。
 過去の素性を知る者がいない事もあって、ゴルドーは昔、名のあるハンターだったのでないか、と。
 そんな噂もたったが、本人はただ笑って、ごまかすだけだった。

 「皆は今日も元気がいいな」

 ゴルドーはそんな彼らに、優しく笑ってカウンターへ向かった。
 すでにカウンターには、先客がおり、ゴルドーはその後ろに並び待つ。
 小柄な女性で、ランスを背負った黒髪の、まだ女の子といってもさしつかえない年頃。
 しかし、装備は充実したもので、特に背負っている武器。ゲイボルグはそうそう、見かけるものではない。

 「ったく、旅費まで飲むんだから! あの無計画性、信じられない! バカ師匠!」

 独り言というには、あまりに大声で愚痴を飛ばしている少女。
 チラリと見えた依頼書は、バサルモス討伐。
 ゴルドーは余計なお世話だと思いながらも、声をかけてしまった。

 「お嬢さん、大丈夫なのかい・・・その失礼な言い方だけど」
 「え?」

 突然、後ろからかけられた声に少女が振り返った。

 「なんですか?」
 「いや、バサルモスを一人で大丈夫なのかなと思って。申し訳ない、失礼したね」
 「あ、いえ・・・ありがとうございます」

 と、やはり、ここで若いハンター達の野次がとんだ。

 「オッサンに心配されたら終わりだな、お嬢ちゃん!」
 「ムリせずランポスでも狩ってきたほうがいいんじゃないか?」

 ゴルドーは、また、申し訳ない、と繰り返す。
 少女は、きつい目でそのハンター達をにらむ。

 「すまないね。私のせいでイヤな思いをさせてしまって」
 「いいんですか、あんなのに言わせておいて!」
 「いや、彼らも本気じゃないんだ。かわいい子達だろう」

 だが、少女のあんなの、という言葉に反応して、若いハンター達が立ち上がる。

 「あんなの、ってのはどういう意味だよ」
 「うるさい、馬鹿! どうせ、群れてなきゃなんにもできないんでしょ!」

 胸を反り返らせて、思い切り見下す。

 「このガキ! ない胸、張ってんじゃねぇよ!」
 「あ、かっちーん、今、かっちーんってきた」

 一触触発という所で、ゴルドーが止めに入る。

 「まぁまぁ。君達、悪かったね。一杯おごるから」
 「オッサンには関係ないだろ、どけよ!」

 乱暴に、ゴルドーの肩を突き飛ばす若者。
 ゴルドーは吹き飛んだ。ゴルドーを見てはいなかったが、若者はそう疑わない。
 過去にどれほどのものだったとしても、若者の力にはかなわない。

 「な・・・」

 だが、ゴルドーは微動だにしていなかった。

 「こんな事でケンカしても何の得にもならないだろう。おさえてくれないか?」

 何もなかったかのように、ゴルドーは困ったような笑顔で若者をおさえる。

 「・・・わかったよ。オッサンに迷惑かけるつもりはなかったんだ。悪かった」
 「ああ、ありがとう」

 ゴルドーは笑った。
 しかし、少女はまだ納得いっていないようで。

 「ちょっとまちないさいよあんたなんかすぐにけちょんけちょんにしてばっかんどっかんしてやるんだからこらにげるな!」
 「まぁまぁ。君にも一杯おごるから」
 「・・・うー」

 すでに席に戻った若者をにらみつつも、馬鹿にされていたゴルドーがこれでは、気力も萎える。

 「・・・いいです。あたし、お酒のめないですし」
 「そうか。私と一緒だな」

 またゴルドーは笑った。

 「でも、納得いかないなぁ」
 「何がだい?」
 「オジさん、強いのに。何でバカにされてるの? 何で怒らないの? からかわれたままでさ!」
 「・・・」

 ゴルドーは一瞬、目をパチパチとさせて、笑った。

 「お嬢さん、私が強いなんて勘違いもいい所だ・・・誰かと勘違いしてないかな」
 「?」
 「私はがんばっても、この程度だよ」

 手にしていたクックの討伐依頼書を見せる。

 「・・・オジさんもランサーなんだ」
 「ん、ああ、そうだよ」

 ゴルドーの背には、使い込まれたアイアンランス。

 「じゃあ、ご一緒しませんか? そのクック」
 「いやいや。君ほどのハンターの益になるものはないだろう。気を使ってもらってありがとう」
 「違いますよ。あたしが勉強したいんです」
 「ははは。年上をからかうものじゃないなぁ」

 笑うゴルドー。
 少女は引き下がらず。

 「ダメでも勝手についていきます」
 「・・・」

 笑顔が苦笑になる。

 「わかったよ、お嬢さん。でも、私に何を期待してるか知らないけど、ガッカリするだけだよ」
 「ありがとうございます!」
 「私はゴルドー、君は?」
 「ティティって言います。よろしくお願いします!」

 こうして二人はジャングルへと向かった。





 目覚めたファランは、小さな目をこすりながら、母親の姿を探す。
 ふといい匂いがして、そちらへ走る。

 「あら、おはようファラン」
 「・・・」

 コクコクとうなずく。

 「もう少し待ってね」

 また、うなずく。
 やがて並べられた朝食を前に、ファランは小さな手を胸に合わせて、お祈りをする。
 リリアもまた同じく、胸に手をあてる。

 「眠りし英雄に感謝を・・・」

 ファランも口だけを動かし、母と同じ言葉を無言でつむぐ。
 ささやかな食事を口にする。
 口のまわりを汚し、一生懸命に食べるファランにリリアは微笑む。
 そして。

 「ファラン、ごめんね」
 「・・・?」

 母の言葉に首をかしげるファラン。
 リリアは、まだ薄く腫れてるファランの涙の跡を優しくなでる。

 「ごめんね」
 「・・・」

 悲しそうにうつむくファラン。

 「でも、お父さんはファランをとても愛してる。それだけはわかってね」

 ファランの表情が一転して、笑顔で開いた。
 生まれた時から、言葉を発せないファラン。
 だからこそ、これ以上、悲しい思いをさせたくはない。

 「・・・」

 ゴルドー宛ての手紙は、今もリリアの手の中のままだった。
 破ってしまえば、どれだけ楽になれるだろうか。
 リリアは、抑えきれず、嗚咽を漏らした。
 それに気づいたファランがイスからたちあがり、かけ寄ってくる。

 「・・・」
 「ごめんね、大丈夫。大丈夫よ、ファラン。何も・・・何も心配いらないの・・・」

 それでも涙は止まらなかった。





 目覚めたメイラは、二日酔いに痛む頭を押さえながら、体を起こす。
 アザァを探す旅の中、この国に寄ったのは、ある場所を訪れる為だった。
 英雄と言われるハンターの中でも、際立って有名な人物が最後に戦った場所。

 「伝説の英雄『龍喰らい』、か」

 あらゆる種を全て独力で討伐したと言われる人物。
 まだ武器も未発達な時代の話で、今では架空の人物と言われている。
 今も伝えられている物語の真偽で一番、問題となるのが龍と呼ばれる種の討伐。
 老山龍。
 人の街へ降りてくる事はごくまれで、さらに絶対数も少ない事により、見た事のないハンターが圧倒的多数の龍種。
 かつては最大の脅威として恐れられた強大な存在。
 今でこそ、武器の強化技術や火薬の調合方法の発達により、勝てない龍ではなくなった。
 実際、過去にメイラも独力で討伐に成功している。
 だが、当時の武器や技術で討伐ができるだろうか。正直、自信はない。
 ただ、ここで終わりの物語ならば、伝説として尊敬されただろう。
 信憑性は薄くても、酒場で語られる英雄達の話とは、たいていがそういったにわかに信じられないものばかりだ。
 だからこそ、語られるものであり、実際にその半分以上は実話だろうとも思う。
 けれど、それでもなお虚偽だと語られる『龍喰らい』の最たる部分。

 「ミラボレアス、か。一度は見てみたいものよね・・・」

 メイラは黒龍に付けられた名を呟く。
 伝説の種、黒龍の討伐すら『龍喰らい』は成し遂げている。
 文献などに残された記録では、この国には十頭以上の討伐が記されている。
 他国では多くても二頭か三頭の撃退記録。むしろ、黒龍の脅威にさらされた国の方が圧倒的に少ない。
 またどの国でも、シュレイドと呼ばれる形式の城を黒龍迎撃用に築城してある。
 通常は一つだが、この国には四つのシュレイド城があった。
 この事実だけでも、黒龍にさられた脅威が他国とは桁違いだという過去の証明。
 しかし、最後の黒龍が討伐されて十数年。
 以降、黒龍は現れていない。
 絶滅したという説もあり、その理由として有力なものが、人の生活圏の拡大。
 それにより、龍といわれる二種、老山龍や黒龍は住処を追われ、やがて餌の確保すらできなくなったのではないか。
 学者達はそう語る。
 対して、引退したハンター達はこう語る。
 『龍喰らい』が、全ての黒龍を滅ぼした、と。
 黒龍があらわれるやいなや、対抗するべく城へ赴き、この国に現れた全てを滅したと。
 黒龍とともに『龍喰らい』は現れる。
 この有名な一文で、この国の伝説の英雄物語は幕を閉じる。

 「まぁ、よくできた話よね」

 メイラは、まったく信じていない。
 確かに黒龍は存在していただろう。しかし『龍喰らい』は、あまりにも現実離れした話だ。
 他国の撃退記録によれば相当数のハンターが動員されている。
 それでもなお、多数の死傷者を出した上に、かろうじて追い払っている。
 それほどの龍、黒龍を独力で討伐とは無理がありすぎる話だった。
 また、記録によると使用されていた武器も様々だった。
 どれほどの腕をもったハンターでも、黒龍が相手ならば、最も使い慣れた武器を使うはずだ。
 中には、全ての武器を自在に使いこなす証拠だと言う者もいるが、メイラからすれば馬鹿のする事だと思う。
 加えて討伐数などがあいまいな理由は、黒龍の情報がギルドが統括、管理している為。
 『龍喰らい』の本名も明かされておらず、それがまた話の信憑性を欠けさせるのだ。
 だが、物語としては充分に楽しめるものなので、そこに登場する城には興味がある。

 「バカ弟子はちゃんと稼ぎに出てるし。観光してこようかな」

 メイラは地図を広げて、道程の確認を始めた。
 全ての城は、ここから二日ほどの距離だった。
 メイラは、比較的歩きやすいルートの第三シュレイド城へと向かった。





 ティティは、先導するようにゴルドーの前を歩いている。
 クエスト中とは思えないほど、のんびりした空気の中、会話を交わしながらクックを探し続ける。 

 「ゴルドーさん」
 「なにかな?」
 「ゴルドーさんは、何でハンターになったんですか?」
 「ははは。色々あってね。でもハンターというほど、大した事もしてないよ」
 「はぁ・・・そうなんですか?」

 そしてまた歩く。
 しばらくして。

 「ゴルドーさん」
 「ん?」
 「ゴルドーさんにも強くなりたいって思った頃、どんな修行してたんですか?」
 「ははは。過去形にされてもなぁ。強くなりたいとは思うけど、今は充分かな」
 「はぁ、まぁそうですよね」

 それ以上、強くなれそうにないですし、と小声でティティは呟く。
 ゴルドーという男、どうにも、つかみ所がない。
 ティティは確信している。
 このハンターは強い。それもとんでもなく。
 もしかしたら、師匠とは認めてないが、師匠の真似事をさせてあげているメイラよりも。
 その上をいくだろうアザァよりも強いかもしれない。
 英雄と呼ばれた者にのみ漂う雰囲気が、ゴルドーにはある。
 あるのだが、どうにも、緊張感というものがない。クックご程度だから、というのもあるのだが。
 それでも周囲に対する反応が希薄なのだ。
 物音がしても、気づいてないように無反応。気配があっても武器を構えることもない。
 どんな敵に対しても、自分にどんな強さがあっても、油断から命を落とす事はある。
 それを知る者が生き延び、強くなる。その先に英雄と呼ばれる者が立つ場所がある。
 そう思っているティティは、やはりまた質問を繰り返す。

 「ゴルドーさん」
 「なんだい?」
 「ハンターになってどれくらいなんですか?」
 「そうだねぇ。君が子供の頃にはもう武器を持ってたかな」
 「なら、ずいぶんと長いですよね。なんでアイアンランスなんですか?」
 「日々の生活で精一杯でね。稼ぎも少ないし」

 やはり笑っている。
 ずっとこの調子で、質問の裏に隠した本当に知りたい事は、はぐらかされている。
 おそらくこの男が自分の強さを口で認める事はないと思うティティは、なおさらクックを探し視線を動かした。





 クック討伐はティティの予想を大きく裏切る結果で終わった。
 酒場に戻り、二人は食事を終えた所だった。会話はまったくない。
 結局、ゴルドーの動きは、平凡以下とも言えるものだったし、ティティが一人で討伐したようなものだった。

 「・・・」

 無言を破ったのはゴルドーだった。
 頭を下げて、

 「いや、申し訳ない。ずいぶんと足をひっぱってしまったようだ」
 「あ、いえ。あたしが無理言ってついてきたんですし」

 確かに結果は出た。
 それでもなお、ティティはゴルドーの強さに確信を持っているし、今もゆるぎない。
 考えられるのは故意に力を抑えている事。
 だが、そう問い詰めてもまた、否定されるだけだろう。
 ティティは少し考えて。

 「明日もまたご一緒してもらえませんか?」
 「え?」
 
 さすがに予想していなかったのか、一瞬ゴルドーから笑顔が消えた。
 すぐに笑顔に戻り、

 「でも、ティティさん。お連れさんがいるんじゃないのかな? 先生と一緒に国を周ってるとさっき言ってたろう?」
 「あー、いいんです。なんか見たい所があるからって、多分、宿にはいないし」
 「見たい所?」
 「なんとかっていう城の廃墟ですよ。ほら、おとぎ話で『龍喰らい』が最後に戦った場所」
 「・・・ああ。そうだね、ここから片道でも三日はかかるかな」
 「そんなワケで、その間は自由なんですよ」
 「・・・ありがたい話だが、申し訳ない」
 「え?」
 「これ以上、君に迷惑をかけるのも忍びない。それに今回の討伐結果を見れば私の力など測るほどでもないと思うが」
 「そうですね。クックじゃ、なんにもわかりませんでした」
 「そうだろう。強くなりたい君は、私に関わって時間を無駄にする事など」

 ゴルドーの言葉は最後まで続かなかった。

 「明日はレウスでどうでしょうか」
 「・・・ティティさん、私には妻も子もいるんだよ。無理はしないと約束もしているし」

 首を横に振るゴルドー。

 「じゃあ、あたしが倒しますから、ついてきてもらえませんか?」
 「それは君に不利益なだけじゃないかな? 足手まといは命とりだよ? それにこのランスじゃ刃が通らない」
 「笛とか粉塵、預けておきますから、それで援護してもらえるとあたしはとても助かります」

 ティティはまっすぐにゴルドーを見ている。

 「・・・どういっても、私と同行するつもりみたいだね」
 「はい。もう意地です」
 「ふぅ・・・何度も言うが、私に期待しない事。報酬や素材を私が苦もなく得るだけだ」
 「手間賃としては安すぎますか?」
 「・・・わかったよ。私の負けだ。せいぜい援護をがんばるとしよう」
 「ありがとうございます! じゃあ、また明日、ここで!」

 ペコリと頭を下げて、元気よく酒場から出て行くティティを見送って、ゴルドーはため息をつく。

 「どうしたものかな」

 ゴルドーは、テーブルにたてかけていたアイアンランスに、小さく語りかけた。



続く・・・





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