「言い訳」 (前編)






 横山は耳をうたがった。
 物陰で何事かを真剣に頼み込む、親友、永島の声に。
 
 「・・・一度だけ・・・明日だけでいいからさー・・・」

 横山は、身を隠したまま、曲がり角の部分で体を硬直させている。
 角を曲がれば、1メートルもない、そこにはよく知る二人がいるのだ。
 すでに授業は終わっており、人気はまったくない。

 「アイツには・・・横山には秘密にしておくし・・・」

 一人は永島。そしてもう一人は、

 「で、でも、もしバレたら・・・私、アイツに嫌われるかも・・・」

 斉藤祥子の声であった。
 その話はいまだ決着がついておらず、小さな声での嘆願は続いた。

 「前にさ、祥子ちゃん、興味ある言ってたでしょ? 何事も経験だと思ってー」
 「・・・そう、言われても・・・」
 「食事代とか交通費とか・・・もちろん、服も俺が用意するよー」

 興味がある・・・経験? 食事・・・服?

 「まさか・・・永島のヤツ・・・?」

 横山は、あらぬ想像をする。
 しかし、永島がそんなコトを持ちかけるワケない。
 そして、祥子がそんなコトを承知するハズもない。
 むしろ、そんな想像を浮かべてしまう己を恥じた。
 
 「それに、ちょっとした小遣い稼ぎにもなるし・・・」
 「うーん」

 横山の心臓が跳ねた。
 つい今、自分を恥じたのが間違いだった。
 金・・・が、からんだ上での、この会話の流れ。
 いかに朴念仁な横山にも、想像するコトは難しくはない。
 そして。

 「・・・まぁ・・・一度だけなら・・・」
 「ホント? ありがとう! 祥子ちゃんなら、OKしてくれると思った!」

 すでに横山は動いていた。
 涙が浮かんでいた。
 親友を信じていた。
 祥子に恋していた。
 二人が自分を裏切ったコトに対しての涙ではなく。
 二人を信じて、愛していた自分が情けなくなって。
 そんな、行き場のない感情が、涙となってあふれたのだ。

 「え・・・横山!?」
 
 驚きの声をあげた永島は、次の瞬間、横山に殴りつけられ。
 うめき声とともに、硬い床へと叩きつけられた。

 「きゃ! 修!?」

 祥子が叫び、なおも、永島に殴りかかろうとする横山をとっさに押さえつける。

 「どうしたの! 突然・・・どうしたのよ! やめてよ、修!」 
 「・・・」

 横山は、乱暴に祥子の体を押しのけた。

 「きゃ・・・」

 トン、と尻餅をついた祥子に目もくれず、横山は永島のエリをつかみ、引き起こす。

 「永島! テメー、どういうコトだ!」
 「・・・」

 永島は何が起こっているか理解できない顔で。
 だが、その顔はすぐに納得した表情に代わり。 
 
 「どういうコトって・・・こういうコトだけどー」

 永島は、淡々と説明を始めた。 
 




 一時間後。
 永島が一人暮らしをするアパート。
 その三部屋あるウチの和室で、横山は土下座していた。

 「すまん! 本当にすまん!」

 事実はこうだった。
 永島には同人に命をかけ、魂を燃焼させる彼女がいる。
 いわゆる超・オタク女であり、当人もそれを自覚しているというツワモノ。
 そんな彼女が、いつものごとく、永島に手伝いを頼んだものの。
 今回はどうしても、女性の売り子が必要になったとの事。
 永島は悩んだけ挙句、祥子に事情を説明し、手伝いを頼んだ。
 当然、オタクの巣窟であるコミケという場所に、抵抗を示す祥子。
 しかし、多少の興味があるのも事実。
 その上、かかる費用は全て永島持ち。
 それに相手は永島である。
 横山の恋人である自分が、横山の親友の頼みを、断るというのも感じが悪い。
 横山には言わない、バイト代もでる、という二つの条件も悪くない。
 それならいいか、と、祥子が決断し、歯切れの悪い承諾をした時。
 物陰から、横山が飛んできた。
 というわけである。

 「何と言って謝ったらいいか・・・とにかく、すまん、悪かった!」

 永島はすでに、もぅいいってー、と笑いながら手を振っている。
 だが、祥子だけが、腕を組んだまま、ほほをふくらましていた。

 「修、アンタねー、横山君と親友なんでしょ! 何をトチ狂ってんのよ!」
 「まさか、そんなハズはないと思っていたハズなのに・・・体が勝手に、いや、すまん!」

 ひたすら、謝り倒している。

 「もー、信じられない!」
 「いや・・・なんというか・・・その、すまん!」
 「それに私がそんなコトすると思ってるの! というか、そんな女だと思ってたの!」
 「もう何がなんだか・・・気が動転して・・・そのすまん! このとーり!」

 横山は、もう何度下げたかわからない額をまた下げる。

 「祥子ちゃん、もういいでしょ。横山に悪気があったワケじゃないし」
 「でもさぁ!」
 「ただの勘違いなんだからさー」

 横山の目にまた涙が湧きあがる。
 さっきの涙とは、まったく違う感情の泉から湧き出すそれは、とても熱い。

 「うぅー、うぅー・・・ながじまぁー」
 「泣くなよ」
 「うぅー、うぅー、ううううぅー・・・」
 「泣くなって。途中からと言え、あんな会話じゃ誤解されてもしかたないし。俺も悪かったんだよ。俺もお前も、どっちも悪かったんだよ。な?」
 「うううううぅぅぅぅぅーー」

 もはや横山は、まともに話をする事もできないほど、号泣していた。

 「あー、もう、はいはい! でも二度は許さないからね!」

 誤解された挙句、殴られた永島がコレでは、祥子とて、そう怒っていられない。
 しかし、勘違いとはいえ、そんな女だと思われていたという苛立ちは収まらない。

 「それにさーぁ、祥子ちゃん」
 「え?」
 「コイツが誰かを殴るなんて、俺、初めて見たよ? よっぽど・・・」

 そこから続くだろう言葉を先読みして、赤くなった祥子が永島の口を手でふさぐ。

 「わ、わかった、だから言わなくていい!」
 「そーお?」

 人の悪い笑みに、祥子は苦笑する。
 自分が誤解された上、殴られたというのに、人に気を使い、場を和まそうとすらする。

 「ま、結局、横山にはバレちゃったけど、祥子ちゃん、オッケーってコトでいいよね?」
 「うん、まぁ。今更、コイツにバレたコトなんて、大した問題でもなくなったし」
 「じゃあ、服、もってくるからさ。ちょっと着てみてよ」
 「今?」
 「サイズあわせとかもあるし・・・ね?」
 「う、うん」

 ふすまを開けて、隣の部屋に置いてあるという服をとりに姿を消した永島。
 無言の部屋に、横山のすすり泣く声だけが響く。

 「・・・ちょっと、いつまで泣いてんのよ」
 「俺、バカだ・・・うぅ」
 「アンタがバカなのはわかってるわよ。今回は、超バカだったけど」
 「うぅー・・・うぅうぅー」
 「あー・・・もう! 大の男が、いまでもメソメソと!」

 祥子は怒りをあらわにした表情だが、その内心、だんだんと嬉しさが湧き上がっていた。
 反省というより、心の底から後悔しているのは、一目でわかる。
 しかも、今回の騒動は、永島を親友として、祥子を恋人として、起こした行動の結果である。
 もしも・・・こんな仮定は無意味かもしれないが、永島や、祥子の身に何か起きたとき。
 その時は、やはり今回のような行動力をもって、守ろうとするのだろうか。
 祥子は想像する。
 よくマンガや小説などで、絡まれる美少女(祥子の想像内なので、当然、美少女は祥子である)。
 そこへ、颯爽と現われ、悪漢をうちのめすヒーロー(横山の役である)。
 もちろん、『俺の女に手を出すな!』と言って登場するのである。

 「・・・なんちゃって、恥ずかしいなぁ、もぅ!」

 なんだかんだ言って、女の子である。

 「な、なに?」

 突然、身もだえして叫ぶ祥子に、腫らした目を大きく開く横山。

 「な、なんでもないわよ。泣き止んだ?」
 「・・・ん」
 「じゃあ、もう忘れなさいよ。私も忘れるから」
 「・・・忘れない」
 「なんで?」  
 「こんなバカな俺を許してくれた、二人への償いとして、今回の過ちは忘れない」
 「う・・・あー」

 さっきまで恥ずかしい想像をふくらましていた祥子だが、それはタナにあげて。

 「アンタ・・・恥ずかしくないの? そんなコト言って」
 「恥ずかしいのは、さっきの俺だ。俺は忘れない」

 よく考えれば、横山は、もともとこういった寡黙で硬派な男であった。
 祥子と付き合い始めて、やたらと明るくなり、あれほど無口だったのに、今では饒舌である。
 けれど、根本で変わっていない。
 大事な事、大切な事には、一つ一つの言葉に責任を持ち。
 冗談は言っても、騙すことは一切ない。
 そういう男なのだ。
 だから祥子も好きになった。

 「・・・バカ」

 不意に、自分が横山を好きになった理由を思い出し、祥子は目をそらす。
 さっきまで子供ように泣いていた男が、やけに格好良く見えてしまい。
 やっぱ、真剣な表情をした男の横顔は良いわー、などと思ったりもしていた。
 横山と祥子、どちらも違う意味で自分の世界に入っているため、無言の空間である。
 そこへ、永島が紙袋を提げて戻ってきた。

 「ありゃ、なんかヘンな空気だね」
 「そ、そう?」

 慌てる祥子。
 一方、すでに落ち着きを取り戻した横山が、まっすぐに永島を見て口を開く。

 「これで最後だ。・・・永島、すまなかった」

 これに対して、永島もさきほどのように軽く手を振るではなく。

 「・・・ああ、これで最後だ。気にするな」

 と深くうなずき、言った。
 そんな二人を見て、ああ、くっさいなー、と思いつつも、コレが男の世界なのかなー、とも思ったりする。
 すぐに永島はいつもの雰囲気に戻り、横山も緊張をといた。

 「じゃあ、祥子ちゃん、コレ。あっちの部屋で着てみて。で、一度、俺達に見せてよ」
 「え? 見せるの?」
 「なに言ってるの。当日は、知らない人の方が多いんだよ? 慣れる意味もあるんだから」
 「そ、そっか・・・でも制服なんてあるんだね」
 「まぁ、制服と言えば、制服かなー」

 言われて、祥子は紙袋をもって、隣の部屋に引っ込んだ。
 ふすまが、パタンと閉じた。
 足を前に投げ出すような格好で、座り込む横山の隣に永島も同じように座り込み。

 「ノド、乾いたろ。ほれ」
 「サンキュ」

 よく冷えたスプライトを差し出た。
 
 「もらっといて、なんだけど、炭酸か」
 「お前の好きなブラックもあるんだけどな。あれ、黒いし、後が大変だろーから」
 「なんだそれ」
 「いや、もしものための用心」
 「・・・?」

 意味はわからないが、ノドは乾いている。
 チリチリする苦手な感覚を無視して、ノドをうるおした。
 永島はいつものごとく、ミルクティーである。
 しばらくして。

 「なー、横山」
 「ん」 
 「もしかしたらさー」
 「なんだ?」

 永島が、言いにくそうに。

 「もしかしたら、なんだけどさー」
 「なんだよ」

 横山が、その言葉の続きを急かす。

 「俺、また、お前に殴られるかもー」

 横山は、眉をひそめる。
 皮肉にしては、痛烈すぎる。だが、さっきも言ったように、もう横山は親友を疑わず。

 「どういうコトだ?」
 
 と、つとめて冷静に疑問を投げかけた。その瞬間。

 「・・・なによ、コレ!」

 ダンッ、とふすまを開け仁王立ちして、永島をにらみつける祥子。

 「ぶふっ!」

 それを見た瞬間、横山は口にふくんだばかりのスプライトを噴き出した。
 
 「やっぱりスプライトで正解かー」

 永島は、すでに用意していたティッシュと新聞紙で、畳を拭き始める。

 「永島君、私、こんなんだったなんて聞いてないし!」

 対して、永島は、

 「言ってないしねー」
 「ちょっとふざけないでよ! 修! アンタも何か言ってよ、そこの親友に!」
 
 目を大きく開けたままの横山。漏れた言葉は。

 「でか・・・」
 「ちょっとドコ見てんのよ!」

 今の祥子は、肌もあらわな衣装を見につけていた。
 それは横山もよく知る、

 「モリガン・・・だ」
 
 ヴァンパイアシリーズのあの人である。
 胸元はハート型に開き、それを支える肩紐は、たよりないくらいに細い。

 「・・・横山、怒ったー?」

 永島は、おそるおそる横山を見る。
 横山は、口元のスプライトをぬぐうと。

 「永島・・・」
 「んー?」
 「あえて・・・あえて言おう。夢をありがとう、と」
 「そう言ってくれると助かるなー」

 次の瞬間、横山の脳天にカカトが落ちた。


 


 「でもねー、祥子ちゃん」

 永島は予備の服を畳に並べる。
 部屋のすみでは、頭を押さえたまま、正座させられている横山の姿。

 「あとは、リリスとサクラ、キャミィしかないよ」
 「むー・・・」

 祥子はすでに、元の私服に着替えて・・・いなかった。
 なんだかんだ言ってさばけた性格である。
 他の服もあるからという永島に、じゃあ出してと言って、そのまま待っているのである。
 内心としては、
 
 『でか・・・』

 という、さっきの横山のつぶやきに、ちょっといい気分になっており、加えて、
 
 「・・・」

 無言で視線をあちこちに散らし、落ち着きのなくなった横山を見て。
 ・・・案外、というか、やっぱり、純情よねー、こういうトコ。
 と、面白がっていたりする。
 しかし、それは相手が横山であるからいいのであって、見も知らぬ人達の前で、これは勘弁である。

 「リリスはかわんないし、キャミィもある意味、これよりえっちぃし・・・」

 いちいち想像しているのか、キャラの名前が出るたびに横山がそわそわとする。

 「でも、サクラなら・・・」

 普通のものに比べて原色寄りに加工されているが、一応は制服である。
 一番、まともである。
 が、永島の発した言葉は、まとも、という基準を一変させた。

 「祥子ちゃん。サクラのコスプレ=高校生だからねー。そこのトコを考えると、一番、難易度高いよー」
 「ぐ・・・あ、あたしだって、まだ捨てたもんじゃないわよ!」
 「うん。俺もそう思う。横山もそう思うよね?」

 コクンコクンと、壊れた人形のようにうなずく横山。

 「だから自分が納得できれば、問題ないよー。ただ、現役女子高生のサクラっ子もいるってコトは言わなくてもわかるよねー」
 「ぐ・・・ぬ・・・」 

 高校を卒業して3年が経っている。
 ピチピチ・・・とはいかないかも知れない。
 けれど、自分より年上でも、サクラはいるんじゃないか?
 そうたずねると、永島は、

 「もちろんいるよ。ただ、似合う、似合わない、という前に、その人たちは例外なく心の強い人達だけどねー」

 それが、さきほどの自分が納得できれば、という部分の意味だった。
 祥子は、その心の強い人達を想像する。
 彼女達はどんな気分で、服を買い、または作り、どんな気分でそれを着るのだろうか。  
 
 「コスプレ・・・バカにしてたけど、けっこう、奥が深いわ」
 「真のレイヤー、あ、コスプレイヤーともなると、年どころか、性別も超越するよー」
 「・・・奥が深い・・・で済むの、それ?」
 「たまに犯罪スレスレの場合もあるけど・・・逮捕者は出てないねー、あははは」

 それを聞いて、ますます祥子は悩み始める。
 床に広げた三点の衣装を、再び眺める。
 リリスは論外。
 キャミィは金髪三つ網のウィッグがワンセットの上、全身のラインがハッキリと出る。
 一応、さっきもらった恋人の評価もあるし、また、自分でも悪くないプロポーションだとは思う。
 けれど、恥ずかしい事にかわりない。
 サクラは、今の説明を聞いて、とても着る事はできない。
 私はそんなに心が強くないし、そんな強さはちょっと遠慮したいとも思ってしまう。
 となると。
 今、着ているモリガンの衣装がまともに思えてくるから不思議だ。
 それに背中の羽はマント状になっており、体にまきつければある程度は隠せる。
 しかし、ふんぎりがつかない。

 「もう・・・ないのよね、衣装・・・」
 「・・・失敗作があと一点あるけど・・・でもアレはキツイよー」
 「失敗作?」
 「見る?」

 選択肢が増えるなら、とりあえず見るべきだろう。
 祥子はうなずき、永島は、隣の部屋からそれを持ってくる。

 「・・・なにこれ?」
 「イブキ」
 「サードの?」
 「うん」
 「まともじゃないの、コレにする! ちょっと待ってて!」

 まるで天の助けとばかりに、喜ぶ祥子。
 さっそく、着ようと隣の部屋に移動しようとしたのを永島が止めようとして、さらにそれを横山が止めた。
 結局、祥子はそのまま隣の部屋へと入ってしまった。

 「なに?」
 「永島。キツイってのはどういう意味だ?」
 「・・・お前、期待してなーい?」
 「ちょっと・・・少し・・・かなり・・・」

 鼻歌混じりで、衣ずれの男が聞こえる。着替え始めたようだ。
 横山は、まぁ、いいかと言い。 
 
 「考えみろよ」
 「考えたけど、別にキツクないぞ」

 首をかしげる横山。

 「イブキの衣装って言っても、上着を脱いだ勝利ポーズの服なんだよなー」
 「と言うと・・・アレか!」
 「そう」
 「・・・よくやった、永島。永遠の親友だ!」
 「それよりも、キツイっていうのは・・・」

 そして、ふすまはドカンと開いた。

 「何よ・・・何なのよ、コレ!」
 「やっぱり・・・おっきい・・・」
 「それでも着ちゃう祥子ちゃんも、お約束だよねー」

 ほとんど、スポーツブラのような衣装である。
 しかし、キツイの真意は下のゆったりとしたスボンにあった。

 「ま、丸見えじゃないの! コレ!」
 「だからキツイって言ったのにー」

 その衣装は、両腿の部分が大きく開いている。
 位置的には、大きなポケットといった感じで、ただポケットの代わりにスリットが入っているのだ。
 つまり、側面からは下着がバッチリ見えてしまうのである。

 「修、このバカ親友様に何か言っ・・・!」
 「・・・白だ」
 「この・・・!」

 カカトがまた落ちた。





 「と、言うわけで。コレで決まりねー」
 「ま・・・仕方ないわね。一度、引き受けたコトなんだし」

 祥子はモリガンの衣装の入った紙袋をバックパックにしまった。
 横山は部屋の隅で、頭をおさえて転がっている。

 「でも、実際、売り場で何するの? 何か売るんでしょ?」
 「そーだよ。本。同人誌っていうヤツ」
 「・・・それって、昔、永島君が、このバカに貸してた、えっちぃ本?」
 「まー、ありていに言えば」

 すでに痛みはひいていたはずの横山が、また転がる。勢いを増してコロコロと。
 それを冷たい目で見る祥子が、ある事に気づく。

 「・・・って、ちょっと待って! 私、そんな本売るの?」
 「いや、今回は違うよ。俺の彼女・・・あ、名前は優歌っていうんだけど。優歌の客って女性メインだから」  「ふーん?」
 「だから、安心していいよー」
 「ま、いいか。じゃあ、明日の朝8時、ここに集合でいいのね?」
 「うん。朝ゴハン食べてから出発ってコトでー」
 「・・・あと、そこのバカ、よろしく」
 「うん。まかせてー」

 そうして、祥子は出て行った。

 「いつまで転がってんの」
 「そうは言っても、なんか今日は色々あったしな」
 「まーね」

 とりあえず、する事もなくなった二人。
 二人して目が合い。

 「行く?」
 「そうだな」

 目的地を口にする事なく、二人は立ち上がりゲームセンターへと向かった。
 
 
  
 







 朝、7時50分。
 
 「なんだかんだで引き受けて、今日の私は、かわるわよー、の人かぁ」

 永島の部屋のドアの前にたち、チャイムを鳴らす。
 キーンコーン、という電子音がして。

 「あれ?」

 返事はない。
 もう一度。
 しかし、同じく何も反応はない。
 
 「もしかして・・・まだ寝てるとか」

 キンコンキンコンキンコーン、と室内に響くが、やはり応対はない。
 ドアノブに手をかけて、回してみると。

 「男二人とはいえ、無用心よねー」

 とりあえず、ここで待ってるわけにもいかないので、祥子はドアを開けて、中へ。

 「おじゃましまーす・・・うわ、くさっ!」

 部屋に張った瞬間、タバコと酒の臭いが鼻をつく。
 台所の換気扇を回し、和室へと入ると。

 「・・・最悪」

 横山が大の字になって転がっており、隣では、妙に寝相のよい永島が転がっている。
 横にはつけっぱなしのテレビとプレステ2。
 モニターには、えんえんとバーチャのデモが流れていた。

 「しかもエボじゃなくて、無印?・・・なにやってんのよ、こいつらは・・・」

 とりあえず、カーテンをあけ、窓も全開にする。
 そして、

 「ちょっと永島君」 

 ゆさゆさと揺り起こす。

 「あ・・・おはよー・・・もうそんな時間?」
 「もう、10分前よ? 間に合うの?」
 「ん、大丈夫。余裕もってるからー」
 「私は、目覚まし時計の代わりってワケ」
 「ホントは起きてるハズだったんだけどー。予定では横山入ってなかったし」

 事の流れで、横山もついていく事になっている。
 必要なのは女性の手伝いなので、遊びにいくだけだが。
 
 「だから、コイツは酔っ払ってるのか・・・」

 おおかた、酒を飲んでるうちに、対戦モードになって、朝方までやっていたのだろう。
 つきあいというか、結局、永島もゲームバカなので、つきあっていて、寝坊した、と。
 むしょうに腹が立ち。

 「起きろ!」

 と、祥子はわきばらを蹴っ飛ばした。










 ようやく目を覚ました二人が、もそもそと動き出す。

 「で、どうするの、これから」

 祥子は、早起きして作ってきたサンドイッチを和室に広げながら、たずねる。
 本当はコンビニに行って、弁当でもと思っていたが、こういう気遣いが二人には嬉しかった。

 「9時発のバスに乗って、30分くらい揺られてー、会場到着。で、入場は10時30分」
 「一時間も前につくの?」
 「並ぶからねー。これでもちょっと遅いくらいだよ。おいしーね、コレ」

 パクパクと食べる永島。
 対して、横山はガツガツと次から次へと、食べ続ける。

 「横山も、なんか言ったら?」
 「い、いいわよ、別に」
 「・・・それもそっか」

 まずければ、これだけ勢いよく食べるはずはないし、またそういう演技ができる男でもない。

 「・・・ぐ、げほっ」
 「ほら、ゆっくり食べたら」 

 ノドをつまらせた横山に、祥子がコーヒーを差し出す。
 それをのほほんと見ている永島。
 その視線に気づき。

 「いやー、なんだかんだで、仲いいよねー」
 「やめてよ、恥ずかしい・・・優歌さん、だっけ? 仲いいんでしょ?」
 「うーん。まぁ、つきあってるしね、そりなりに」
 
 ただ、とつけ加え。

 「優歌が、俺のどこを好きになったのかが、わかんないんだよねー」
 「彼女の方が告白してきたんだ?」
 「んー、まぁ。1年くらい前に、ゲーセン帰りの公園でね。突然」
 「へ、へー」

 どこか、とても身近で聞いたコトあるシチュエーションである。
 しかし、それは永島には話していない。横山もそういう話はしていないはずだ。

 「おっと・・・それは違う人の話かー」
 「げふっ!」

 またも、むせる横山だが、今度はコーヒーが差し出される事はなかった。

 「いつ・・・聞いたのよ?」
 「昨日。酔っ払いの親友が、嬉しそうに話してた」
 「・・・嬉しそうにね」

 肩をすくませる祥子。それに永島なら別にいい、とも思う。 

 「で、実際は?」
 「俺の場合も実は、ほぼ一緒だよ。優歌とはゲーセンで、たまに顔を見る程度だったし」
 「じゃあ、ホントに?」
 「うん。まぁ、帽子かぶって乱入してくるコトはなかったけどねー」
 
 祥子のヒジが横山のワキに埋まった。

 「・・・祥子さん、痛いです」 
 「あら、そう?」
 「話、続けていーい?」
 「そらさせてるのは永島君でしょ」
 「で、まぁ、対戦もしてないし、コミュニケーションノートも俺、書かないし。でも、ある日、ゲーセンから帰ろうと店を出たところ」
 「うん」
 「ちょっと付き合ってって言われて、近くの公園で告白されたんだ」

 永島の立場に立って、想像してみる。

 「・・・うーん、なんか、唐突よねー」
 「うん。俺もずっとそー思ってたけど、まぁ、君達の実話を聞いて、そーゆーのもアリなんだなぁと」
 「ぐ・・・」

 他人の事を言える祥子ではない。

 「で、でもさ、優歌さんに聞かなかったの? 俺のどこがいいの? とかさ」
 「聞いてもさー、一目惚れって言うだけなんだよ。そっぽ向いてさ」
 「ふーん。あ、ちなみに年は?」
 「一つ上だよ」
 「お姉さまなワケね」
 「お姉さま、かー」

 苦笑する永島。

 「なに、その表情」
 「会えばわかるよ」
 「うー、ごちそうさまー、腹いっぱいだ」

 男二人と女一人の分量としても、かなり多めに作ってきた。が、その半分以上をたいらげた横山。
 満足げに眺める祥子。

 「はい、おそまつさま」
 「・・・祥子ちゃん、爪の先少しだけ俺にくれない?」   
 「なに、それ?」
 「優歌に、煎じて飲ましてやりたくなってきた」





 予定通り、三人は9時30分頃、長蛇の列の一部となっていた。

 「・・・暑い」
 「・・・わね」

 横山と祥子が、入場券を兼ねているというパンフレットをバサバサと団扇にして、仰いでいる。
 隣では、永島が見取り図のようなページを開き、蛍光ペンで今日の道順を確認していた。

 「お前、慣れてんなー・・・」
 「まぁ、ねー」

 周りを見れば、似たような事をしている人間が何人かいたりする。

 「・・・なんかさー」
 「・・・そうだなー」

 祥子が言いかけて、横山がこたえる。

 「まだ言ってないわよ」
 「言わなくてもわかる」

 長年つれそった夫婦のような状態。
 しかし、言いたい事はわかっていた。
 二人は浮いていた。
 妙にそわそわし、座ったり、立ったり。
 永島だけが、周りに溶け込んでいる。

 「なぁ、永島」
 「んー?」
 「お前の彼女は?」
 「ああ・・・多分、かなり前の方にいると思うよ。昨日は徹夜だったろうし」
 「徹夜? 今日、コレやるのに?」
 「出展サークルのメンバーが前日徹夜なんて、珍しくないって」
 「準備のためか?」
 「というか、売り物を作ってたりして。時間なんて、どれだけあっても足りないもんだよ」
 「そんなもんかねー」
 「そんなもんだよー」

 やがて時間がきて、入場が開始される。
 しだいに列が動き始める。

 「やっと入場か・・・」
 「どうでもいいけど・・・暑い。早く中に・・・」

 二人のつぶやきに、永島が、

 「いっておくけど、中、冷房なんて、ほとんど効いてないよ」 
 「マジかよ・・・」
 「なにそれ・・・」
 「この時期、熱気がこもるしねー。当然、人も多いし」

 入場すると、永島の言葉どおり、そこは外とそう変わりはない。
 だが、直接、陽に当たらないだけマシ、である。
 
 「えーと・・・優歌のサークルは・・・っと」

 永島はざっと机に張られた、英数字の表記を見て。

 「あっちだね。行くよー」

 右も左もわからない二人は、ただ黙って誘導に従って歩いていく。
 というより、すれ違う人達の発する雰囲気にのまれ、言葉を失っているという方が正しい。

 「・・・ここってヤバイところじゃない?」

 祥子が、すでに『変身』を終えて、会場を歩いているカサンドラ&ソフィーティアを見て言う。
 横山がうなり、祥子に視線を戻して。

 「でも・・・セクシーさじゃ負けてないって。特に胸・・・」
 「そーゆー意味じゃないわよ、バカ!」
 「けどさ・・・あーゆーのもいるし」

 横山の示す先には、アナカリスがいた。
 その上、かなりリアル。なので、当然デカい。
 一般客がまだ入っていない時間だというのに、その歩き方はゲームに忠実で、カクカクとしていた。

 「・・・あの人にとって、戦いはもう始まってるのね」
 「ああ・・・そうだな。このくそ暑いのに、あんなハリボテ着込んで・・・」 

 色んな意味で嫌な汗をかく二人。
 そして、永島が、

 「はい、ここでーす」

 と立ち止まった場所には、長机の上に色々と準備している一人の女性。
 永島が、そのうちの一人に見えをかける。

 「おはよー『魅衣』(みい)ちゃん、優歌は?」

 と、それまで気づいてなかったのか、ハッと顔をあげる女性。

 「あ、おはようございます、『刹那』(せつな)先輩。優歌先輩は今、イスを取りに行ってますよ」
 「そっか」

 永島が『刹那』と呼ばれ、横山と祥子が首をかしげる。
 永島の下の名は刹那ではないし、ネットで使うハンドルとも違う。
 またバーチャで使っているリングネームでもない。

 「刹那?」
 「ああ、言ってなかったっけ。俺、ここでは『刹那』でよろしくー」
 「なによ、その名前?」
 「レイヤネーム。ちなみに今回は、4仕様のレオンで行くから」
 
 永島は持っていた大きな紙袋をポンポンと叩く。

 「なに、お前もやるの?」
 「そりゃー、祥子ちゃんだけにさせるのもねー」
 「・・・」

 なんともいえない気分になる祥子。
 仲間が増えた、というより、好きでやってる永島の同類と思われたくないなぁ、と。 
 
 「ちなみに、この子は『魅衣』ちゃん。今回、祥子ちゃんと一緒に売り子する子ね」
 「よ、よろしくお願いします! 今回はサクラやります!」
 「・・・サクラ?」
 「はい!」

 ピクッと、祥子の眉が動く。
 それをどうとらえたかは知らないが、永島が付け足す。

 「あー、『魅衣』ちゃん、現役高校生なんだよ」
 「じゃ、若輩者ですが、よろしくお願いします! えっと、『祥子』さんでいいんですか?」
 「それは本名よ・・・」

 何か意味のわからない怒りがわき上がり、口調がとげとげしくなる祥子。
 対して、何か失礼を事を言ってしまったのかと、動揺する『魅衣』。

 「え・・・と。じゃあ、レイヤー名は、なんですか?」
 「・・・そんなの」

 決めてないわよ、と言おうとした時、永島が。

 「彼女は、『由宇(ユウ)』。一年くらいやってたけど、しばらくやってなかったんだ」
 「あ、そうなんですかー。私と入れ違いくらいですかね」
 「うーん。ここではやってなかったからねー。違う場所でやってたから、ダレも知らないと思うよ」
 「ちょっと!」

 祥子があせり、永島をひっぱる。
 そして小声で。

 「どういうコト? コスプレなんてやったコトないわよ!」
 「やってたでしょー。黒いユン。一年前。しかもそれで対戦してたし。横山と」
 「・・・あ・・・アレはコスプレじゃなくて! それに『由宇』ってなによ?」
 「ユンをちょっと変えただけ」
  
 と、二人がもめてる間。

 「えっとー・・・初めまして!」
 「え、ああ。初めまして。『魅衣』ちゃん?」
 「いいですよ、それで。で・・・」
 「ああ、俺? 俺は横山。永・・・じゃなくて、『刹那』の友達」
 「レイヤー名は、なんですか?」

 目をキラキラとさせて聞いてくる『魅衣』。
 人見知りをしないというより、新しい仲間を見つけた目である。

 「え? えーと・・・」
 「ああ、こいつは『璃宇(リウ)』。今回はコスプなしでー。なぁ?」
 「え、あ? うん?」
 「・・・あ、そうなんですかー・・・残念ですね」

 カックリ、と小さな肩を落とす『魅衣』。
 さきほどの祥子と同じく、横山も永島を引っ張り、小声で。

 「なんだよ、その『璃宇』って・・・」
 「リュウを少し変えただけー」

 見れば『魅衣』はいまだ、気落ちしたままだ。
 横山と祥子は永島に、

 「っていうか、あの『魅衣』って子、えらいガッカリしてるぞ」 
 「そうよね、なんか、話が違うってカンジの表情だわ」 
 「ああ、それはね。今朝、彼女から電話があって、二人のコト、話しておいたから」
 『なんて?』

 二人の声が小さくハモる。

 「カプコン系レイヤーで、超気合入ってるよーって」
 『なんで!?』

 二人の声が大きくハモる。

 「『魅衣』ちゃんねー、カプコン系の知り合いがいなくって。いてもここで知り合った人だけだし」
 「で、サクラなんだ・・・って、じゃあ、衣装ってカプコン以外もあったの?」
 「ぶっちゃけ、フツーのあたりさわりのないものも、たくさんありましたー」
 「・・・」

 祥子が、なんとも言えない表情になる。
 永島の本性というものが、人の好い仕草、表情に隠れて、見え隠れしている気がする。

 「けど、俺までコスプレイヤーかよ」
 「男性レイヤー少ないからねー。まぁ、横山は今回、衣装忘れたってコトにしとくし」

 横山は『魅衣』を見る。
 どうやら、予定外で増えた男性レイヤーにかなり期待していたらしい。

 「・・・なんか、かわいそうだな」
 「でも、事情を話したら、やったか、コスプレー?」
 「う・・・まぁ、でも・・・うーん、祥子もやってるし、やったかもなぁ」

 今更、どうしようもない。

 「そっかー、お前、やっぱいいヤツだなー」
 「けど、今更、どうしようもな・・・」

 言いかけ。

 「じゃあ、更衣室へ移動というコトで。横山・・・おっと、『璃宇』もねー」 
 「はぁ?」
 「実は、この袋には二人分の、つまり、レオンとダンテがあります。ちなみに銀パツのヅラもありまーす」
 「・・・ダ、ダンテ・・・」
 「がんばれよー、今日のお前はハンターだ。作品を超えて、モリガンを狩る愛の狩人と化すのだー」

 横山があっけにとられ、文句を言う前に。

 「『魅衣』ちゃん、やっぱり『璃宇』がやるってー。しっかり持ってきてよ、ダンテ衣装ー」
 「え、ダンテ! ダンテ様!?」

 目がキラキラと輝きだし、一気に活力を取り戻す『魅衣』。

 「なんだー、それならそうと最初から言って下さいよ! でも、ダンテなんて渋いですね、カッコイイ!」

 急に、横山に歩み寄り、その手を取ってブンブンと握手している。
 祥子がそれを見て。

 「・・・行くわよ。時間ないんでしょ・・・!」
 「あ、そうですね! でも、優歌さんがまだ・・・あ、戻ってきた」

 『魅衣』が指差す先にはパイプイスを四脚かかえた、メガネの女性。
 ほつれかけた長い三つ網は、ジーパンの腰あたりまで届いている。

 「優歌さーん、皆さん、着ましたよ」
 「おっ」

 声をかけられ、ガッチャガッチャと駆け足で、近づいてくる優歌。

 「悪い。スタッフが新人でさ、手間取るもんだから」 

 イスを机にたてかけ、優歌が永島の肩をポンポンと叩く。

 「で、こっちの二人が、今日手伝ってくれる子?」
 「そう。今朝も言ったけど、一人、増えたからー」
 「でも、男性は・・・そのマズイぞ、せっかくだけど・・・」
 「ああー、俺とそこらで遊んでるから。手伝うのはこっちの『由宇』ちゃん」

 優歌はメガネをくいっと上げ。

 「・・・」
 「・・・な、なんですか?」

 初対面でこれは失礼なんじゃないの? とは思いつつも相手が年上なのは知っているので、とりあえずの敬語。

 「美人だねー・・・これは助かるなぁー、ホント」
 「・・・えーと・・・どうも」

 こう言われては、文句を言う事もできない。
 さらに、『魅衣』が。

 「ですよねー。まだ、何のコスか聞いてないんですけど、すっごい楽しみなんですよー!」

 と、それを聞いて、祥子が小さな声で、本当に小さな声で。

 「ヨユーってコト? この小娘・・・」

 だが、当然、それは誰の耳に届くこともなく。

 「ほー。じゃ、アタシも楽しみにしてよっかねー」
 「ちなみに、彼女は『由宇』さんで、こちらが『璃宇』さんです!」
 
 突然、紹介され、横山もあわてて。

 「『璃宇』・・・です」

 と、ぎこちなく、なれない名前を名乗った。

 「彼はナニやんの?」
 「ダンテですよ! 気合入ってるって聞いてたんですけど、スゴイですよねー!」
 「ダンテ? スゲーね、カレシ」
 
 何がどうスゴイかはわからないので、横山はとりあえず愛想笑いを浮かべる。

 「で、お前はなにやんの?」
 「俺? 俺は4のレオンだよー」
 「4の?・・・お前も気合いれてんなー」

 と、その時。

 『開場、10分前です・・・サークル入場者の方は・・・』

 アナウンスが入る。

 「あ、ヤバイ・・・アタシは準備あるから、みんな着替えておいで」 
 「はい!」
 「じゃあ、行こうかー」
 「・・・はいはい」
 「はいよー・・・」

 一人だけかなりテンションの高い、『魅衣』。
 いつもとまつたく変わらない様子の、永島。
 妙に『魅衣』をみらむような様子の、祥子。
 見事にハメらてしまったという顔の、横山。



続く





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